でっきぶらし(News Paper)

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43号(1985年01月)7ページ

良母愚母 第三回(猛獣編)【トラ(良母ながら途中ちょっぴり愚母ぶり

 日本一へまい進中、トラのカズにはそんな意識は全くないでしょうが、出産回数、無事に育った頭数、それら一つゝが“日本一”の折り紙をつけられるところへ近づいています。今も親子仲睦まじい姿が…。たった一頭ながら無事出産し、育児に奮闘中なのです。
 トラは“相性合わせ”のむつかしい動物だと動物園に入った頃よく言い聞かされました。事実、妊娠したメスが、いい寄って来たオスを咬み殺したことが、他園でながら起こったことからして、あながち的の外れた教えではなかったと思います。
 では、当園のカズはどうでしょう。来園当初は子供で、人懐っこい個体でした。成獣になってからも、一緒に来たオスが気に入らないといって困らせた、そんな話は聞いたことがありません。気立てのやさしいメス。「あんなに器量よしのかわいい娘はいないよ」こんな表現がピッタリするぐらいでした。
 これは、カズの経歴を見ても明らかです。カズは、都合夫を三度迎えています。最初のオスは肺出血で急死して、二度目のオスも肉片を喉に詰まらせてこれまた急死しました。この間只の一度も新しく来たオスとトラブルをおこしたりすることはありませんでした。もっとも、いきなり初顔合わせした時だけは、いささか神経質になったようです。急性胃潰瘍にかかり、何日か血を吐き続けたと聞いた時は、トラの神経質さを垣間見たような気がしました。が、これとて一過性のことでした。
 気立ての良さが、子宝に恵まれる一番の元であったと思います。十四回三十七頭、まあよくうみ続けました。と言うより、うみ続けていると言ったほうがよいでしょうか。三年前の“個体別繁殖ベスト10”の中で堂々一位に入り、今なお記録を更新中なのですから。
 で、そのお母さんぶりはどうなのでしょうか。総合的にみれば、面倒みのよいやさしいお母さんです。が、全てそうして育てた訳ではありません。途中、ちょっぴり“いけないお母さん”ぶりも示したことがありました。
 初産の時の人工哺育は、飼育する側の神経質さもあったので差し引くとしても、前回及び前々回の人工哺育は頂けません。あまりにも見事な育児放棄でした。へその緒からばい菌が入ったりして、無事に育ったのはポスターにも使われたケンちゃん一頭だけでした。結果はどうであれ、願わくはカズ自身の手で育てあげて貰いたいものでした。
 カズの実績を唐ワえると、「何故」と言う疑問も湧いてきます。良母ぶりを示していたのが、突然育児放棄!!そして今回、又良母に戻る、何とも理解に苦しみます。
 でも、それがカズの育児の過程です。過去にはひと晩別居しただけで、親子の縁があっさり切れたこともありました。良くも、ちょっぴり悪くも綴ったのが、カズの育児ドラマです。それを積み重ねるなかで、いつしか日本一の呼び声がかかるようになったのです。
 やさしい穏やかな顔にまだ衰えは見られませんが、確実に忍びよっているはずです。親子の仲睦まじさが見られるのも、ひょっとして今回が最後かもしれません。
かわいいさかりを迎えている今のうちに、とくと御覧ください。そして記念に、写真を撮ってみてはいかがですか。

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