87号(1992年05月)8ページ
あらかると【赤ン坊の保護】
3月の中旬のことでした。呼び出しを受けて事務所へ行ってみると買い物かごが置いてあり、その中で手のひらに乗るぐらいの小さなものが2つごそごそと動いていました。その生き物を見たとたんに「あっ、またタヌキの赤ン坊が保護された。」と思いました。全身はまっ黒で鼻はペチャンコ、足は短くまったくタヌキの子にそっくりでした。はずかしながら課長に教えられはじめてキツネの子であると知りました。キツネの成獣は年間に数頭保護されますが、赤ン坊はめずらしく、私もはじめてお目にかかりました。
体重が200グラム程のまだ目も開いていない2頭の女の子に「シロ」と「クロ」という名をつけました。毎晩家につれて帰っては妻に育児の練習をさせながら小犬用ミルクで育てました。わりとよく保護されるタヌキやハクビシンの子も家につれて帰りますが、この2頭のキツネは成長記録をとっていたこともあり、特に哺育に力が入っていたように思います。本当は差別するなどもってのほかですが…。
2頭はこんな大きな愛?に包まれてぐんぐん大きくなりました。すぐに歯がはえ、目が開き、毛の色も日ごとに黄色くなっていきました。体重もどんどん増え、からだだけは成長していきましたが、やはり人間に育てられた為中身はまったく飼い犬と同じで御主人様が来るとうれしくてしっぽをふりふりじゃれてきます。狩りのやり方はもちろん、自然界での敵やおきても知りません。このような状態で野生に帰しても、生き残れる確率はどれ程のものでしょうか。しかしそれが保護された野生動物の赤ン坊の運命です。毎年何頭もの子供が同じ運命を担い山へ帰されていきます。動物園では体の成長は助けられても中身の成長は助けられません。かといって死ぬまで飼うわけにもいきません。
キツネのシロとクロは体重も3.6キロと4.1キロとりっぱになりました。つい最近本当に万に一つの幸運で沖縄こどもの国で暮らせることとなり、もらわれていきました。義理のお父さんとしては、ただただ娘たちが沖縄のみなさんにかわいがられてほしいと願うばかりです。
それと同時に野生動物の赤ン坊の保護が少しでも減ることを切に祈ります。動物園はやはり親になることはできないのです。
(高見一利)