90号(1992年11月)5ページ
サルのケンカ【ワオキツネザル・子殺しの裏】
もうずいぶん昔のことになりますが、ワオキツネザルは今のマーモセット類がいるほうの獣舎で飼育されていましたが、運動場はともかく寝部屋はやや狭過ぎたように思います。
オス一頭にメス一頭ならまだよかったのでしょうが、いたのはオス一頭にメス二頭の三頭でした。それでもふだんは三頭仲よくしていたようです。弱った、困った話は耳にすることはありませんでしたから。
問題は春先、子が生まれた時でした。母親の胸にしっかりしがみついている愛らしい光景が描かれて間もなくのことです。メス同士が何が原因か激しくトラブル、そしてそのあおりを喰ったのでしょう。咬み殺された子が後に残りました。
更に翌年も同じようなパターンで、同じことが起こりました。つまり、またもやメス同士のトラブルで子が咬み殺されたのです。
正に唯唯しい事態です。せっかく生まれた子をむざむざ死なせてしまうなんて、こんなに口惜しいことはありません。
ここでとられた回避策は、出産する少し前にメスを分けることでした。一頭は動物病院に引き取り、一頭だけをそのまま残すことにしたのです。
この策はてきめん、病院に引き取られたメスも、そのまま残されたメスも無事に出産し、子はすくすく育ちました。
それにしても、寝部屋が少し狭いぐらいで何故あそこまでトラブルを起こさなくてはならなかったのでしょう。メス間の序列がぐらついて、狭いなりの最もよい寝場所の奪い合い、更には好物の奪い合いも加わったことなども考えられますが、内に激しいものを秘めていることをうかがわせた事件ではありました。