90号(1992年11月)7ページ
サルのケンカ【ブラッザグェノン・仲よし夫婦だが】
アフリカに棲むグェノンの仲間は、美しさにおいては他を引き離しています。ブラッザグェノンはその中では平凡な種類ですが、それでもなかなかの色模様です。
私がこのサルに魅かれるのは、単にその美しさだけでなく、彼らの思春期をよく知っていることが起因しているからでしょう。
出産総数十三頭に及ぶ最初の仕掛けに大きく関わりました。たいていは何もしなくてもよいものですが、何かしらの手助けが必要な場合もあるのです。
仲のよいペアとなって何頭かの子にも恵まれ平穏な日々が続いていたある日、更に次の子の出産を間近にひかえていた日のことです。朝の通常の観察時にふとメスの脚部に目を向けると、ざっくりとえぐれていました。
かってもう一頭のメスのいじめに遇ってくじけていたオスがこんなことをするのかと目を疑い、発情期ならまだしも妊娠末期、いったい何が原因でそうなったのかさっぱり理解できませんでした。しかし、何歩譲ろうともやったのはオスしか考えられません。
なんとか傷を治し子も無事に生まれた後、メスはもう一度がぶりとやられています。それも原因は不明です。現場も誰も見てはいませんから、オスしか考えられないと言うしかありません。
その事件があってからもう十年近く経っています。その後も繁殖は順調だったから十三頭の子の数を数えられるのです。仲のよいペアと言ったて差しつかえないでしょう。
しかし、あれはいったい何が原因だったのでしょう。下手をすれば死ぬかもしれない程の咬傷を何故負わせたのでしょう。仲のよい夫婦だけが知っている秘密です。