90号(1992年11月)8ページ
サルのケンカ【ダイアナモンキー・生まれた子を巡って】
ブラッザと同じグェノンの仲間ですが、月の女神とはえらくしゃれた名を頂いたものです。実際、その美しさは格別。世界で最も美しいサルのひとつに数えてもよいでしょう。
ところがこのサル、一見気品に溢れているのとは裏腹に、非常に気性の激しい一面を持っています。今だって隣室のニホンザルとしょっちゅう「ガッガッガッ」とやり合っています。時には、それが仲間同士にも向かい合います。
世代は入れ替わって、長女が初めて赤ちゃんを生んだ後のことです。そろそろ老いを見せ始めた母が、長女の生んだ子にしつっこく関心を示しだしたのです。長女が避けても避けても、くっついて離れようとしません。
二代目の父親は、よく言えば人懐っこくもどうも貫禄がありません。間に入っているようなのですが、さっぱり効果なく無視されてしまっています。
そうこうしている内にとうとう母娘ゲンカです。しつっこい母親に遂に娘はきつーい一撃を加えたのです。
今から思えば、母親の腕や脚がどうにもならず、それに子を奪われなかったのも幸いなことでした。乳の出る筈のない母親に奪われてしまえば、否応なく私達が関わらなければなりません。
母性愛のなせる業でしょう。生まれた子を恵ってのトラブルは想像以上によく起き、時にはオスさえ関与します。最近では、クモザルのオスが子を奪ったのがよい例です。
このダイアナモンキー母娘では全く逆のこと、つまり母親が子を生み、それを長女が奪ってしまう事件が一昨年に起こりました.運命の皮肉なお返しです。
子が生まれても即万才といかないのが常。悲喜こもごもはそこから始まるのですが、子さらいは一番頭の痛いトラブルです。
(松下憲行)