110号(1996年03月)6ページ
動物の仕草あれこれ?V(草食獣編)【恋路のじゃまする奴は…】
古い話で恐縮ですが、感慨深い話です。今のキリン達の一世代前の話です。
話としては、先程の続きのような感じで、キリンが恋の時期を迎えた時のことです。ただふつうに迎えられたのだったら、何の問題もなかったのですが…。
ピークにさしかかろうとしている頃、メスのトクコが以前から傷めていた脚をより悪化させてしまったのです。草食獣にとって脚がどうにかなるのは、結果的には命取りになってしまいます。
このような状況ではとてもオスとは一緒にさせられない、と判断した担当者は別居させました。極めて妥当な判断です。健康に責任を持たねばならない者として、当然の判断です。
ですが、その判断はどこまでオスのフジオに通じたでしょう。全く通じないどころか、“切なる思い”を邪魔されたと、フジオの恨みを一身に受けた、と言っていいでしょう。
放飼場の掃除をしていた時でしょう。徐々に間をつめつつ近寄ってきて、いきなりハイキックを見舞ってきたそうです。「俺の恋人を返せ。さもなくば」の思いだったのでしょう。
キリンもふだんは、穏やかなやさしい眼をしています。恐さなんてどこにも感じられません。放飼場に入っても、通常では攻撃を仕掛けてくるのは、まずあり得ません。
ただ近寄った時の圧力は凄いものがあります。五m近い位置からの眼から見据えられる圧力、そこがキリンが攻撃を仕掛けられない安全地帯であっても身はすくみます。記録の為に近づいたのですが、恐怖はしっかり植えつけられました。
担当者はもっと切実、やむを得ず、恋路を邪魔せざるを得なかったのですが、オスがどのような行動に出てくるか分からず、背筋に覚えた恐怖は相当であったと思います。