でっきぶらし(News Paper)

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70号(1989年07月)8ページ

あらかると【病気になったダンボ】

 ゾウのダンボ、いつも元気で園内の職員にはもちろん、少しでも顔を覚えた者には水をかける等の悪戯をします。それが六月二十四日の夕方から急に餌を食べなくなり、体もだるそうにし始めました。
 次の日には、横になって寝る有様です。ふつうゾウは、日中に横になるなんてことはまずなく、夜だってわずかで睡眠時間もせいぜい三〜四時間です。なのに朝からそんな状態では、心配でたまらなくなってきます。
 開園以来の二十年間、これといった大病は患っていません。ただ当初に鼓張症と軽い熱射病にかかった程度です。
 餌は何をやっても食べようとはせず、無理に口に入れても鼻で投げ出してしまいます。
 どちらかと言えば甘党だから、角砂糖がいいだろうと与えても駄目、臭いをかいて終わりです。
 体が大きいから、二〜三日食べなくても大丈夫だろうと思っていました。が、横になってお腹が痛むような仕草、横っ腹をコンクリートに押さえつけているような様子を見ると、もうたまらなくなってきます。
 治療として、腸の動きをよくする薬と、ビタミン剤、強肝剤の注射を毎日三本。でも、食欲はなかなか湧いてきません。
 アカシアの葉を与えてみると食べました。で、これはと思い多く与えると、もう食べません。サツマイモにしても同様でした。
 ろくに食べていないのですから、当然便も少なくなります。ふだん七〜八個のでかいのをするのが、二〜三個でしかも小粒。これでは、心配は募るばかりです。
 元気がなくなって五日目、リンゴを無理に口に入れると食べました。これはいけると、とにかくリンゴだけでもとふんだんに与えました。そのせいか、横になる回数も少なくなりました。
 六日目には、元気のいい時には食べない、ニンジンをも食べるようになりました。ダンボ自身が体をコントロールし、消化によいものを選んで食べているように思えました。
 十九日目には、与えたものをほぼ平らげるようになりましたが、とても回復したと言えません。腰の部分はげっそり、頬もこけて、病み上がりだということが一目瞭然です。
 少しずつながら元気を取り戻し、餌もふつうに食べるようになったのは、一ヶ月も経過した頃でした。肉付きもかなりよくなりました。
 それにしても、と思うのは病気の原因。はっきりとは断定できないものの、浮かび上がってきたのは、青草による中毒でした。東京の上野動物園や多摩動物公園で、過去に青草を与えて中毒症状を起こしたことがあったからです。
 違いは、向こうは一週間から十日で治ったのに、ダンボの場合はかなりの日数を要したこと。その分、心配度も増して我身もやせる思いをしました。
 ほっとして、憎まれっこがいいな、の心境。鼻で誰かに水をかけて悪戯するのは「元気だゾー」と言っているようなものですから―。
(佐野一成)

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