でっきぶらし(News Paper)

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70号(1989年07月)10ページ

実習を終えて 日本動物植物専門学院 杉山久美子

 私の実習期間はたったの十一日間と非常に短く、その上前半の六日間は子供動物園も後半の五日間は小型サル舎、マレーバク、シロサイ、ダチョウという大変慌ただしいスケジュールで、担当の皆さんには中途半端で、余計に御迷惑をおかけしたことと思います。
 実際に作業をしていくうちに、私自身、短期間だから通しで子供動物園にした方がいいかもしれない、とも考えましたが、今思えばそうしなくて良かったと感じています。アクシスジカの解剖の手伝いも少しだけやらせてもらえたし、動物園の一日がどうなっているのか、そのしくみを知ることもできました。また、一般の人によって非常に数多くの野生動物が、動物園に持ち込まれているという事実も分かり、私にとってこの十一日間は、たかが十一日間されど十一日間とでも言いましょうか、とにかく充実した満足のいく日々でした。
 子供動物園では代番の飼育などもあり、結構いろいろな動物をやらせてもらい、楽しくできました。中でも印象に残っているのは、レッサーパンダとヒョウの“リュウノスケ”それにインドニシキヘビです。生まれて初めて触ったヘビは予想とはうらはらにひんやりとはしているものの全く湿り気がなく、さらっとしている、だけど何となく手に吸い付く様な不思議な感触でした。打ち合わせに来た時点では、レッサーパンダが出産したことも、ヒョウを人工哺育していることも全く知らなかったので実習初日は驚きましたが、またとないこの機会に、リュウノスケとは毎日遊んであげました。又、レッサーパンダの子供は独特な匂いに親とは似ても似つかない姿で、まるで仔犬か仔猫の様に見えましたが、すでに毛がごわごわしている点や立派な尾をしている点などはやはり親譲りだな、と思いました。それに毎日どんどん毛が赤茶色に染まり、みるみる大きくなっていく成長の早さに驚かされました。ただ、そろそろ開いてもいいはずの眼が、とうとう開かないまま実習が終わってしまったことが非常に残念です。
 後半の初日は体力的にも精神的にもとにかく疲れました。今まで全く接したことのない動物に接したわけですから、何をどうしたら良いのか全く分からず、その上恥ずかしながら何の予備知識も持たずに作業に入ってしまったので、担当の方にいろいろ聞かれても満足に答えられないのはもちろん、質問さえろくにできない有様で、ただただ言われたことをやるのみとなってしまい、後悔しています。せっかく実習させていただいたのにこれでは…と担当の方に申し訳なく、自分が情けなかったのと同時に、そんな私に様々なことを教えて下さったことにとても感謝しています。
 この後半の実習では多くの貴重な体験ができました。何と言ってもマレーバクとシロサイのブラッシングです。特にシロサイの方は、サイの体の上に立ってデッキブラシでこすったことが忘れられません。どちらもとても気持ちよさそうな顔をしてくれ、こちらまでいい気分でした。
 私にしてみれば、今までは単に眺めているだけにすぎなかった大型動物に初めて接し、獣舎を掃除できるだけでもすごいことなのに、その動物に人間と動物との間に全く遮るものがない状態で触れたことは、言葉にならない程の感激でした。それから最初は全く区別のつかなかった小型サルを最終日には、顔を見て名前を言えるようになったことも大きな収穫でした。やはり何か少しでも分かれば、今後それらの動物を観る眼が変わっていくでしょう。
 今回の実習では動物以外のことというか、飼育以前の基本的なことについても多々教えていただきました。特に「掃除の仕方にどれが正しいということはない」ということと「文献を鵜飲みにしてはいけない」ということ、「動物は信頼はしても決して信用してはいけない」ということです。しかしこういうことは長年の経験から言えることであって、基礎もまともにできていない私にはまだゝ難しいことです。けれど未熟だからこそもっともっと視野を広く持たなければダメだということがよく分かりました。
それから、みなさんの作業の手際の良さにはただもう感心するばかりでした。それに比べて私ときたら掃除の仕方、用具の扱い方など自分でも恥ずかしいくらいに要領が悪く、力もないし、私は私なりに精一杯やったつもりですが、みなさんの眼にはさぞかし頼りな気で危なっかしく映っていたことでしょう。私は健康には自信がありますが、やはり飼育には体力が必要だと改めて痛感しました。
 こうして無事実習を終えることができましたが、当初は飼育係に女性が一人もいないということ、その上飼育係の方は年配の方が多いということで、私の様な実習生は全く相手にしていただけないのではないだろうかと、とにかく不安でたまりませんでした。しかし実際には皆さんが結構声をかけて下さったり、気を使って下さったりしてとても良い状況で実習することができました。
 この十一日間で得た事は数知れませんが、その中のほんのいくつかでも生かしていける就職ができる様に、最後まで諦めないで頑張ろうと思います。
 足手まといにしかならなかったとは思いますが、細かい事まで親切に御指導下さり、実習をしてほんとうに良かったと思います。日本平動物園の皆さん、短い間でしたが、本当にありがとうございしまた。

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