でっきぶらし(News Paper)

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97号(1994年01月)5ページ

人工哺育 その個体を追う(その2)★オグロワラビー・ビビが魅せた神

オグロワラビーに限らず、有袋類の生まれたばかりの赤ん坊を人の手で育てるのは、至難の技どころかまず無理と言って差し支えないでしょう。超未熟、その大きさは小指の先ぐらいしかないのですから。
でも、人工哺育をせざるを得ない場合があります。と言っても、超未熟の状態ではなく、成長過程で何らかのアクシデントがあって、お腹の袋から子が落ちてしまった場合です。
ビビと名付けられた子が母親の袋から落ちたのは十六年ぐらい前になるでしょうか。パルマワラビーの時にはことごとく失敗、ビビもどうなるか心配でしたが、担当者の細やかな愛情が効を奏してか、すくすく育ってゆきました。離乳も、群れへの復帰も、状況をただ見守るしかない者の眼からは、予想以上の順調さでした。人工哺育の悪いイメージがまつわりつかない流れでした。
担当者が、息を切らすように私のところへやってきたのはそれから何年後でしょう。午前中の雨がしとしと降る中、カメラがないかと駆け込んできたのです。
手持ちのカメラを持って急いでゆくと、ビビが出産の姿勢を取っています。陰部からは血がポトポト、このシーンだって貴重とシャッターを押している内、「あっ、子がいた」
これが自然保育の個体だったら、委細構わず袋の中に入ろうとする子も放って逃げたでしょう。でも、人工哺育故にヒトとの信頼関係は抜群です。なおかつ、担当者は袋の中を観察する為のトレーニングも定期的に行っていました。最も不安を覚える筈の時にも落ちついており、トレーニングの効果がしっかりうかがえました。
出産シーンから育児のう内での成長過程、離乳に至るまでの記録は、私の宝物として手元にあります。人工哺育の有難さが身にしみたのは、この時が始めてです。

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