97号(1994年01月)6ページ
人工哺育 その個体を追う(その2)★フンボルトペンギン ロッキーの学
フンボルトペンギンは鳥類ですから正しくは人工育雛と言い直すべきでしょう。そのペンギンが人に育てられた後に群れに戻されると、どんな障害が起きるのでしょう。
恐さ知らずが幸いしてか、群れの中ではいつも優位に立っているようでした。キーパーに対しても挑戦的で、私が担当していた時も「図々しく俺様のところへ近寄ってくるとは何事だ」的な怒りの表情を度々示しました。
それがペアを形成するのにもいい方向に働いたのでしょう。オスが多過ぎてあぶれる個体がずいぶんいたのに、ロッキーと名付けられていたその個体は、しっかりメスを確保していたのですから。
しかし、初端に耳にした情報は、ああやっぱりと思わせられるものでした。交尾が下手で、メスにうまくマウントできなかったそうです。
それをなんとかクリアーしたと思ったら、今度は‘死ごもり‘事件です。抱いている卵とうまくコミニケーションを交せず、ふ化寸前になっても抱卵、これでは、卵の中の子は圧死するしかありません。
それを何度繰り返したのかは知りません。一、ニ度でクリアーしたのかも知れません。優位を誇ってお気に入りの巣穴をいつも確保し、いつしか育雛に勤めるようになったのですから、立派には立派です。立ち直れる術を示し、気がつけばはっきり汚名を返上していたのです。
そんなロッキーも、晩年は哀れでした。これがあの強気でならしたロッキーとはとても思えない程のやつれようでした。どこにも、向かってくる気迫は感じられませんでした。
原因は趾瘤症です。足の裏側よりバイ菌が入り、徐々に足が腫れてこぶ状になり、遂には足元からポロリの状態になっていたのです。でも、彼はペンギン舎の王様であったことは紛れもない事実でした。