でっきぶらし(News Paper)

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99号(1994年05月)11ページ

あらかると「ツバメの恩返し」

私が日本平動物園へ勤務して三年目、なんと月日の過つのは早いのでしょう。一年目の初夏にツバメやスズメの餌の保護ラッシュに右往左往、管理事務所の先輩である長坂さんの母親振りに感心しきりで当時を思い出します。
さて、そんな訳で今年もベビーラッシュ到来かとボンヤリ考えながら二日酔いの頭をなだめつつワープロを叩いていると、「しのーォ、戻って来たゾー」と三宅主幹の歓声が、私の頭をガンガン殴りました。何事かと顔をしかめながら事務所の外へ出て、眩しい五月晴れの空を眺めて私は「ヤリィー、本当だ。戻って来た」と三宅主幹と顔を見合わせてしまいました。
二年前に巣立って行ったツバメが、又今年も戻って来たのです。昨年ニュースで紹介された奴が、今年も・・・?通路にまいた餌をまいて啄ばむし、ピンセットに挟んだ餌を空中キャッチ。昨年の奴と同一人物かは疑問符が付くが、動物園出身者であることは紛れもない。通常ツバメは人の間近に舞い降りて来て餌を採ったり、人の手を介して餌を摘まむなどしないから、それから2、3日は?拶程度に顔を見せたが、パタッと来なくなってしまいました。恐らく営巣しているのだろうということでした。
そうこうしている間にツバメベビー第一号は例年より遅く五月二十一日に到着しました。動物病院から籠やマイナーフード等の子育ての七つ道具を揃えて準備万端。二十九日には途中でみじか命を絶ってしまった者もいましたが、四羽の雛がピィーピィーと元気よくお腹がすくと鳴いていました。
この頃になるとしっかりと羽根がはえた立派なツバメ。高校生といったところでしょうか。そろそろ飛び立つかなと鈴木管理課長と話をして席に戻るや否や、「コラー、カラス。逃げろーっ」「駄目だ・・・殺られた・・・」と鈴木管理課長の落胆の声。最近、カラスが飛び立ったばかりの幼鳥を狙っていて、動物病院でもムクドリが被害にあっているとか。カラスも野鳥で彼らの食性からすれば仕方のないことですが、目の前で我子を殺られてしまうのは辛いことです。
ガッカリばかりもしていられません。他の子供達が餌を欲しがっている。ベットも糞で汚れています。そのうちベビーブームで籠も満室になることだろう。ブツブツ独り言をつぶやいているとその時、ピィーピィーと頭の上から聞こえてきて見上げると二羽のツバメがぐるぐる旋回し、一羽が籠の上へ舞い降りました。「あいつだ、殺られなかった。戻って来たよ」そしてもう一羽はそれを見届けて飛んでいきました。ありがとう、先輩ツバメ。真のツバメの恩返しでした。(篠崎晴好)

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