でっきぶらし(News Paper)

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100号(1994年07月)4ページ

「でっきぶらし」百号記念特集 オランウータンの介添保育

早くも三度目の出産です。経験の積み重ねからさすがに今までになく落ち着き、ひょっとすれば自然保育、そんな淡い期待さえ抱かせてくれました。が、今回いくら待っても授乳させる様子は見られず、やむなく介添保育を試みました。
前回の初端はかたくなに拒否し、子の頭を乳首に持ってゆく、乳首に吸いつかせる、ただそれだけのことに子を抱きしめる母親と十数分間も格闘するありさまでした。それは、クリコ(母親の名前)の育児能力が、皆無に等しいことをよりいっそう証明する幕開けでもあったのです。
他園での介添保育の状況を調べれば、長くても一ヶ月ぐらいで自然保育へ移行しています。当園のクリコの場合は、そうなるまでに三ヶ月以上も要しました。
私達が予期し得なかった粗雑な扱いが随所に見られたのです。まさか、自力で吸いつく子の哺乳妨害に及ぶなんて、なおかつ自分で自分のオッパイを飲んでしまうのには、呆れてあいた口もふさがらぬ思いでした。
それだけに終わらず、私が名付けた悪癖”にきびつぶし”をひまになるとやり出し、子の体を傷だらけにしてしまいました。もちろん子は痛いからすさまじい悲鳴をあげます。それで切なくなるのは私の方で、クリコは私にどんなにきつく叱られても、やらずにいられない心境のようでした。
正に抱くこと以外何もできない”ぐうたら”です。ただ救いは、こんな私にでも全面的に信頼してくれて、子を自由に扱わせてくれたことです。おかげで体重が容易に計れ、貴重な成長記録を残すことができました。
三度目も、結局はこの前回の歩みの繰り返しです。確かに多少の進歩はありますが、あまりにも遅い歩みです。
出産直後のかたくなな介添拒否はなくなり、露骨な哺乳妨害もなくなりました。横になっている時などは、子の頭を乳首の方へ持っていくようになっていますが、所詮その程度でそれ以上は何もできないのです。
自然授乳が見られても長くは我慢できず、頭を引っ張ってはずしたりしてしまします。
”にきびつぶし”をやって子を泣かせるのは前回と全く同じで、いくら叱っても私の眼を盗んではムキになってやっています。特に両眼のまぶた付近、両耳は、かなり赤くはれてところどころ皮がむけているような状態です。
ここまでくれば、情けないと言うよりもう諦めの心境です。そんなクリコでも母親。肌の暖かさを絶えず与えられるのはクリコ、こればかりは誰も代わることはできません。人工哺育にしてしまっては、ミルクを与えることはできても、母親の肌の暖かさを与えることができなくなってしまいます。
後は担当の私の頑張り次第です。前回のケンを育てた実績があります。その思いを胸に秘めながら、クリコと二人三脚、毎日毎日介添保育に励んでいます。
(松下憲行)(「でっきぶらし」6号要旨抜粋)

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