100号(1994年07月)12ページ
「でっきぶらし」百号記念特集 カリフォルニアアシカの離乳
代用のミルクで泣いたなら離乳作業にも泣いた、と言うところでしょうか。人工哺育を始めたのは昨年の五月のこと。それが年内にはとても終わらず、今年の春に人工哺育ラッシュが始まった頃にようやく終了したのですから、何をか言わんやです。
まずミルクですが、糖質はゼロで、その分たん白が高く脂肪分は三十%以上、いかにドロドロネバネバしたミルクか想像して下さい。野生での哺乳は、一日に一回どころか二日に一回ぐらいではないかと言われています。
それだけに栄養補給にひと苦労、ミルク(食肉獣用)にサバのすり身を混ぜたり、サラダオイルを混ぜてみたり・・・挙句に下痢を招いたりして、様子を尋ねるのも気がひけたぐらいです。
結局、サラダオイルはやめ、サバのすり身だけをミルクに混ぜることでなんとか哺乳のぺースをつかみました。が、待っていたのは離乳の大きな壁でした。
まずは生き餌のドジョウや金魚から。口にくわえて遊ぶ内に食べて味を覚えてくれればしめたものですが、そうは簡単に問屋は卸してくれません。
この辺のところをどう語りましょう。聞こえてきたのは、担当者のため息と嘆きの声だけ。なんとかコイの稚魚を食べるようになったのは生後十一ヶ月余りを経てからで、その間ミルクに混ぜるサバのすり身の比率を高める工夫が凝らされていました。
(第63号・人工哺育抄・その?Uより)
ページ数が足りない、偽らざる思いです。百号記念について仲間と話し合った時、よし、ひとつは”人工哺育を基軸”にしてまとめてみようとの気になりました。あり余る程記載されている筈だと考えたからです。
あり過ぎでした。当時者の直接の投稿記事は思ったより少なかったのですが、情報提供して頂いたことを唐ワえると、改めて驚き入る次第でした。
読みの深い方だったら、これは単なる様々な人工哺育ストーリィとは受け取られないでしょう。私達自身が、ひたむきに考えねばならない問題が内在しているのは確かです。
人工哺育そのものに数?が問われるでしょうし、そうならない為の環境作り、技術的な問題、育てた個体のリハビリ、その他もろもろの問題が次から次へと投げかけられてきます。考えないほうが楽ですが、現実にはそうは参りません。
かつてキリンの担当者が、人工哺育してせっかく四才まで育てあげながら、失った哀しみをせつせつと書く中で、未来を見据えていた項目がありました。将来の介添保育を念頭におきながら育てていたのです。
それこそキーパーが考える解決法。可能だったかどうかは分かりません。しかし、そのチャレンジ精神こそが、新たなる人工哺育に立ち向かうエネルギーを湧かせるのです。
次回は、違う観点から百号をまとめたいと考えています。御期待下さい。
(松下憲行)