でっきぶらし(News Paper)

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56号(1987年03月)8ページ

子育て奮闘記 パート?U キリンの巻 佐野一成

 昭和六十一年十一月十四日、マサイキリンの徳子に四頭目の子供が生まれました。出産予定日を十月三十日としたのですが、予定より十六日おそい出産でした。これは前回三回の出産における経験より予想したもので、一回目の出産が最後の交尾より四六六日目、二回目の出産は四六一日目、三回目の出産においては四五八日目と妊娠期間がだんだん短くなってきていたのです。そこで今回は最終交尾より四六〇日目の十月三十日を出産予定日としました。
 徳子においては、三回の出産のいずれもが、人工哺育で大きくなっていますので今回もそのつもりで観察態勢をしいていたのですが、出産予定日がすぎてもいっこうに生まれません。夜間の観察も他の飼育の職員の協力をお願いしたのですが、回数が多くなるにつれ、皆に申し訳ないような気持ちになってきました。
 十一月に入り、徳子の体の変化としては、尾の挙上動作(尾を上に上げる)や陰部より粘液がでてきたり、陰部の開閉動作、又腹部はパンパンに張っていつ生まれてもおかしくない状態でしたが、いっこうに生まれません。私もだいぶあせってきました。
 出産三日前にも胎動(子供がお腹の中で動く)が見られましたが、餌の食べ方も細くなり、陰部も今まで大きく見えていたものが、小さくなってきて、もうだいぶ近くなってきたと確信しました。しかしまだ出産の柱?がいまいちです。
 十一月一四日、妊娠四七五日目の夜中の観察当番は私でした。夜中キリン舎の中に入っていくと、いつもなら雄の富士雄、雌の徳子、そして子の一八はだいたい座っていて、扉を開ける音で起立するパターンでした。ところが、その日は、一八は座っていたのですが、徳子は室内を歩きまわっているのです。時々首を背中の方にそらして歩いているのです。また歩くのをやめて陰部をなめたり、夜間でもは徘糞する回数が多かったりして、一八を出産したときの夜中の状態と同じだったのです。
 これは出産の前兆にまちがいないと思いました。けれどすぐには始まらないだろうと思い、午前三時に一度家に帰り、五時に来てみると、まだ夜中と同じように室内を歩きまわっていました。
 (これなら午後になるかもしれないな。)その日が代休日で午前中どうしても用事があったので代番者にお願いして用事をすませ、午前十一時五十分に動物園に着き、キリン舎に行ってみるともう出産が始まっていたのです。
 前足の一本目が出かかっていたので、急いで他の人に連絡し、観察を始めました。前足の二本目がなかなか見えないので入口にひっかかってしまったのではと心配しました。その後何回となく陣痛がきて室内を歩きまわっているうち、午後一時二一分にようやく二本目が見えました。じつに一本目がでてから一時間三十一分後でした。
 その後は七分間隔ぐらいで陣痛がきて、足がでたりはいったりくりかえし、午後二時十七分子の二本の足の間から鼻先の黒い部分が見え始めました。三十一分鼻先がピクピク動いているのが見られ、三十八分には頭が半分ぐらいでてきました。四十七分に頭全体がでてきて、子は口をもぐもぐさせていました。
 ここからは陣痛の間隔も短くなり、十〜十五秒間隔できました。四十八分肩まででて、耳を動かしているなと思うとと、次の陣痛でズルズルと子の体が、陰部よりでてきました。子の頭が床より四十センチぐらいになると、体全体がでてドサッと床の上に落下し、出産!!午後二時四十九分でした。
 ここまではいいのですが、この後どうなるか、私達は徳子が子供の体をなめ、子が起立したら授乳してくれることを夢みていたのです。しかし徳子は子の臭いをかぎにいったまではよかったのですが、子が起立しようと動いたとたん、さっそく前足でけりを入れたのです。そのけりが子の首のところにあたり、十センチぐらい皮膚がすりきれてしまいました。
 これではダメだと判断し、徳子を外にだして子の起立を待ちました。羊水でぬれている子の体をふいてみたのですが、なかなか乾きません。親がなめるとすぐに乾くのです。そうしているうちにドタン、バタン、起立。出産後三十九分でした。そしてキーパー通路中の仮小屋に入れただちに牛の初乳をいただく手配をしてもらいました。
 翌日の昼、出産より二十一時間後に初めて乳を与えてみると、子は腹がすいていたせいか、前回三頭よりもじょうずに飲んでくれました。これから約五ヶ月間は回数は減って行くが、毎日飲ませなければなりません。また乳を飲んでくれても、注意しなければならないのは下痢です。今までも一〜二回の下痢に見舞われましたが、当園のキリンは下痢をしていても乳を飲んでくれたので、薬を投与でき無事に成長してくれました。今回も生後八日目に下痢に見舞われましたが、薬を投与して第一難関は突破しました。生後の二十日ぐらいからリンゴ、キャベツ、サツマイモなどを食べ始めたので、哺乳量を七五百ccから六千ccに減らし、採食量をふやすようにしむけます。
 これからの予定では、生後九十日より一日二回四千cc、百二十一日ぐらいより一日一回二千ccにして生後百五十日前後で離乳させ、餌だけにして成長させていきたいと思います。

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