39号(1984年06月)4ページ
昭和58年度 動物園の1年 後編 11月
期待空振りハネジネズミの飼育・オグロワラビーの子袋より落ちる・他
新しい試みには、失敗はつきものです。新夜行性動物館にハネジネズミを展示しようとしましたが、全く日の目を見ずに終わりました。3頭購入したのですが、検疫中にバタバタ。一番長く生きたのでわずかに2日でした。死因は全て胃潰瘍。何のことはありません。急激な環境の変化にストレスがたまり過ぎて、あっという間にダウンしてしまったのです。事ある度に、動物を飼育するむずかしさを思い知らされます。
10月の欄で、オグロワラビーが成長する過程でヤマ場を迎えている、と語りました。それは、自力で袋の外へ出るにはちょっと早すぎる形で表れました。6日、袋より落っこちてしまったのです。
11月ともなると、かなり寒く、長く放っておけば凍死が心配になってきます。人工哺育もできれば避けたいものです。そこで不安になってくるのは、全く目の届かない夜間に落ちてしまった場合です。
赤外燈が赤々、暖房の効いているところを仕切り、夜間はその親子をそこにしまうようにしました。ヤマ場を凌ぐ為の苦労は報われて子はすくすく、今では袋に入れなくなるぐらい大きくなっています。
先月から続く話には、アシカもあります。1ヶ月の間に体重が2kg近く減って、12.7kgになってしまったのです。離乳させるにはちょっと早すぎると思われる幼さでしたが、ためらっている暇などありませんでした。
アシカ用のミルクが開発されていれば、そう心配はないのですが、まだ安心して与えられるミルクはありません。しばらくそんなミルクを強引に与えられた後、思い切って離乳が進められました。
結果は、成功でした。金魚やモロコを一生懸命食べるだけでなく、消化不良を起こしている様子もありませんでした。わずか5ヶ月余り経過しただけで、離乳を試みた例は他園でもなく、担当者にしてみれば、薄氷を唐゙思いだったと思います。
他、11月には、子供動物園と新熱帯鳥類館に、コザクラインコの“捨て子”が相次ぎました。「動物を飼うということは、殺すということ」つまりは死ぬまで飼えということです。これは、多摩動物公園に勤めておられる吉原さんが書かれた、著書の中に出てくる言葉です。充分に肝に命じて頂きたいと思います。