39号(1984年06月)10ページ
ベンガルヤマネコの出産 人工哺育に切り換える!
川村敏朗
昭和57年8月に、日中友好動物交換として西安市よりいただいたベンガルヤマネコが、4月11日にはじめて出産しました。
以前にも、メスの腹が異常にふくらみ、まるで妊娠しているような体型になり、赤ちゃんが生まれるかと待ち望んでいましたが、空振りに終わりがっかりした事もありました。いまだに、そのふくらみは何だったか不明のままであります。
今回は交尾も確認しましたので、妊娠まちがいないと思い出産箱も入れ、出産の日を待っていたのです。子供はオスとメスの2頭でした。
小型ネコの仲間や小獣の肉食動物は、出産に対しては特に神経質になり、繁殖させるのに難しい動物であります。せっかく妊娠して出産したとしても、安心できないのか食殺してしまうことが多く、数滴の出血を見つけては、出産したよ様うだと思うのがほとんどであります。そのため、できるだけ安静にし、薄暗くして出産を待ちますが、出産しても子供を確認する事は鳴き声だけしかできない事もあります。面倒見の良い親であっても、私たちがのぞいたりすると、食殺してしまう事もあるのです。
そのような事から、安全を考えて出産前にはオス・メスを別飼いにするのが本当でしょうが、番で展示しなければならない点と、狭い獣舎ということで、番での出産ということにしました。
オス親の方の性格は比較的オットリ型、メス親の方は少し神経質気味の親です。出産後、メス親の子に対する面倒見を心配していましたが、心配をよそに良く面倒をみており、オス親も子に対して危害を加えるような事はありませんでした。
メス親に自然に哺乳させ、育てさせるのが理想でしたが、翌日に出産箱より子が落ちているのが確認され、生命の安全のため落下防止のベニヤ板を出産箱に取り付けました。ただでさえも神経過敏になっているところ、おりからの落雷停電と重なり不安になったためか、子の面倒を見なくなってしまいました。
そのため、2頭の子供は人工哺育に切り換える事にしました。取り上げた時の体重はオスが77g、メスは60gでした。もちろん目もあいておらず、歯も生えてはいませんが、元気な鳴き声を出していました。
さっそく動物病院に移し、ミルクを与える事にしました。ミルクは肉食獣用ミルク(商品名、エスビーラック)を使いましたが、吸いつきは良いものの、飲む量は少なく、その時の哺育日誌を見ても、少量、少々、1cc程度、と記入されているだけです。それでも、日がたつにつれメスの方は飲み方を覚えたのか、満腹になるまでほとんど一気に飲むようになりました。飲み終わると“グタッ”とし、動かなくなり、死んでしまったのかと思いきや、手のひらの中で“スースー”と眠っている事もありました。
オスは対照的にいつまでも飲み方が下手で、“チューチュー”と力強く吸うものの、音の割にはミルクの量が減っていかず、空気もいっしょに吸いこんでしまい、少しのミルクの量で満腹感になってしまうようでした。
そのため、メスの体重はどんどん増えていき、オスは少しずつしか増えていかないので差が開くばかりでした。そしてオスは生後2週間位から約10日間、体重が増えなくなってしまい、下痢気味で血便を出す始末でした。毛づやも悪く、肛門、顔の付近の汚れが目立つようになり、もうだめかと思いつつ、ため息をつきながら哺乳を続けていました。体重が増えてきたときは、喜ばしく、毛づやや体の汚れもいっぺんに取れてしまった様に感じ、それからはため息も出ず哺乳することができました。
生後1ヶ月目の体重は、オス150g、メス204gになりました。このころになると、動きもすばやく身軽になってきたので、ジャンプしたり走ったりするようになり、まるでゼンマイ仕掛けのぬいぐるみのように可愛らしくなってきました。
まだしっかりしていない足取りで、私の後をついてくる様子は、実に可愛らしく担当者の役得といえます。
現在(6月2日)の体重もオスが340g、メスが480gと増え、ミルクの回数も1日5〜6回が2回になりました。そして離乳作業も順調に進み、馬肉の切り身をおいしそうに食べるようになりました。
ですが、動物は生き物です。これで安心、これで大丈夫ということはありません。いつ何時、何が起こるかもしれません。今後とも気を付けて見守っていきたいと思っています。このベンガルヤマネコの子2頭共、私の手から離れ、元気に一人(頭)立ちできるよう念願しています。
最後に、私がこの子供に付けた名は、オスが『ベン』、メスは『ガール』です。あわせてベンガールです。どうってことのない名ですね!
この名前は仮の名前で、皆様から募集しますので、彼も彼女も喜ぶ良い可愛らしい名前をつけて下さい。名前が決まりましたら、発表しますので、『ベンガルヤマネコがいる!』のではなく、名前を呼んでやって下さい。