でっきぶらし(News Paper)

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47号(1985年10月)5ページ

良母愚母 第8回 ◎エリマキキツネザル(良母の血を引いてきて)

 エリマキの名に便乗して、一時期ちょっぴり人気を博したことがありました。が、こちらは驚いたからと言って広げるのではなく、いつも暖かそうな感じで首のまわりをつつんでいます。
 飼育され始めたのは、新たに第2小型サル舎が建設されてから。ハイイロ、ブラウン、クロ、ワオ、更に奥でひっそり静まりかえっているフトオコビトキツネザルを加えれば、ちょっとしたコレクションになります。それぞれ他園ではちょっとおめにかかれないものばかりです。が、ちょっぴりプロ好みの感じも否めなくはありません。
 新たに加わったこのエリマキキツネザルは、とんでもない大声の持ち主。「グウァオ、グウァオ、・・・」と叫び始めると、もう大喧嘩でも始めたような騒々しさで、前担当者はその大声に驚いては急いで駆けつけたそうです。が、何かあったわけではなく、平穏そのもの。
 そのうち、まともに取り合うのが馬鹿馬鹿しくなって、黙って聞き流すようになったそうです。恋の雄叫びなのか、仲間同士のコミュニケーションなのか、それとも他に別の理由があったのかはわかりませんが、その大声は飼育のし始めにはまったく人騒がせでした。
 出産のニュースが伝わってきたのは、今年の5月。当園にやってきて1年余り後ですから、非常に順調な飼育経過といえるでしょう。
 ヘェーッと新たに驚かされたのは、1度に3頭も産まれたこと。しかも、子供に握力がほとんどなかったことです。これも類人猿や真猿類とは全く違います。1度に2頭も産まれようものなら、それだけでビッグニュースだし、産まれた子はどんなに小さくとも、母親にしっかりしがみつく力を持っています。
 キツネザル類に限らず、原猿類を見ていると、食性や習性の特異さは想像を超えるものがあります。つい最近産まれたオオガラゴの場合でも、オス親と分けたことで育児がうまくゆき、母親は子を抱くのではなく、くわえて移動するのです。固定観念で生き物を見るべきではないことを改めて教えられます。
 さて、育児ぶり。寝室へ子を置いて餌を食べにくるなんて、放棄してしまっているようですが、それこそ先程述べた通り、固定観念に捕われないことが大切。それがごく当たり前のようで、1頭が病弱故に死んだものの、残りの2頭はすくすく育ってゆきました。 
 今では、親にくらべてひと回り小さい程度にまで大きくなっています。母親は、横浜市野毛山動物園生まれで、かつ初産。ちょっぴり不安な要素も含んでいましたが、どうやら撮り越し苦労、良母の血をしっかり引き継いでいました。

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