61号(1988年01月)5ページ
動物の食べ物 熱帯鳥類館 「キンバト」
特にうーんと唸らせてくれるものに、砂のうがあります。歯のない鳥類がどうやって穀物を消化するのか、よくよく考えれば不思議な話です。が、うまくできたもの、消化器系の一部にそれを砕いて消化し易くしてくれるところがあり、むしろ驚く早さ(2時間内外)で栄養を吸収させてしまうのです。
熱帯鳥類館でのその代表といえば、キンバトがあげられるでしょう。飼料はと言えば、ハト配合と小鳥配合とわずかな麻の実、砂のうの必要性をいわずとも悟らせてくれます。そこからは、育雛時には俗にいう「ハトミルク」も分泌されるともいいます。乳腺を持たない鳥類の見事な機能です。
旧館においては、そのミルクでもってどれだけの雛を育て上げたことでしょう。新館にいるのは、彼らの末です。かなり以前に当時の担当者から聞いた話ですが、途中でヒナが死んだ場合、結果的に親も非常に苦しむと聞きました。溢れるように作り出される「ハトミルク」の持って行き場がなく、胸がパンパンに張ってしまう為にです。何やらせつなさや哀れさを誘う話でもあります。
アカガシラエボシドリ、キヌバネドリ他、次に唐ワえねばならないというか、気を配ってあげなければならないのは、彼らの消化の早さとエネルギーの激しい消耗です。先程述べた「哺乳類と体の作りの違いは、臓器に及ぶ」を思い起こしてください。
腸は短かくて、消化は驚く程の早さで進みます。かつ大空を自在に飛翔する生き物、エネルギーの消耗は相当なものでしょう。
担当者に細かなことを教わる中で、「まず、朝出勤すれば、早く餌を与えることを考える。」の答えがありました。それと飼育ハンドブックの中に「もし太る傾向が出始めたら、量ではなく質のほうで考慮しなくてはならない。」の一項。誰に教えるというより私自身が教えられ、かつ納得のゆく答えでありました。
彼らの餌台を覗くと、リンゴ、ミカン、バナナ、ブドウ、トマト、パンそれにマイナフード、ドッグフードなどが食べ易いように、かつあり余るほどに並べられています。そうです。エネルギーの消耗が激しく、貯えのあまりきかない生き物に飢えは禁物。出勤すればできるだけ早く餌を与える、それも余り気味に与える。それが基本であると唐ワえればよいでしょう。
この他には日本独特の飼料「すりえ」も与えられています。たん白質の供給源として申し分のない飼料ですが、欠点としては繁殖した場合の育雛、すなわち親が子に与える餌になり得ないところにあると言われています。
動物食が必要なら、当然のごとく浮かんでくるのがミルウォーム。年配の方にはむしろ「コクゾウムシ」といったほうが分かりいいでしょうか。小鳥を飼っておられる方ならすぐに分かって頂けたでしょう。アカガシラやキヌバネはそう食べないそうです。これはキヌザルの仲間にもそういった傾向がありました。つまり昆虫に対する嗜好性は強いものの、ミルウォームは敬遠する傾向です。甲虫の仲間である為に幼虫時でも表面の皮膚は固く、それが食を誘わない素因になっているようです。実際、消化もあまりよくないようです。
鳥類に限らず、昆虫食の強い動物はずいぶんいます。ですが、現在の動物園で養殖されている昆虫は、ミルウォームかコオロギあたりがせいぜいで、昆虫園のあるところぐらいがやや裾野を広げている程度です。例えば、チョウやガの幼虫、柔らかくておいしそうで消化にもよさそうです。もし、ほんの一時期ながらも与えることができるのなら、いい刺激になるのではと思ったりします。いえ、まるっきしの空想ではなく、マユガの幼虫(カイコ)を蛹にする前に餌にしている話を聞いたことがあるからです。やや受け売り的な発想なのです。
それにしてもと思う熱帯鳥類の飼育。ここのポイントをつかむのは頭痛のタネでした。できれば急行通過で済ませたかったのですが、先には爬虫類というもっと頭痛のタネが待ち受けているものですから、開き直って挑んでいるのです。