でっきぶらし(News Paper)

一覧へ戻る

« 133号の5ページへ133号の7ページへ »

133号(2000年01月)6ページ

あらかると 「クモザル騒動記」

 下の池にポツンと小さな島があり、ここにクモザルの若夫婦が住んでいます。最近このオスの方が、給餌や清掃のために島に上陸する担当者や代番の私に対し、威嚇の声を出したり時には手や口を使い攻撃してくるようになりました。
 これには様々なことが考えられます。この島で生まれ育ち、それが縄張り意識を強くさせもしたのでしょう。
 子どもの頃より飼育係と接し可愛がられて、ヒトの恐さを知らずに育ったのが最たる要因かもしれません。成長し交尾能力を有したことで、オスとしての自信が更に加速したようです。
 向かってくる時の恐さは、同程度の大きさのサルと比べても一段上をいきます。地面を這うようにして進み、攻撃してくる姿は大きなクモそのもので、名前の由来をいやでも思い知らされます。
 虫のクモが大嫌いな私にとっては、なおのこと恐さが募り、ボートをこぎ島に近づくと気が重くなります。最近では、好物の落花生と干しブドウを島にばらまき注意をそらして、その間に餌を置き水替えを済ませ、早々に島を後にしていました。 
 しかしこれではいけないと、島の中の小屋と餌台を改造することに。業者が測量にきましたが、ひとりでは無理です。
 担当者と私がついて3人で島へ上陸したところ、オスは一目散に逃げ去ってしまいました。島の隅に入り込み、今にも池の中に落ちんばかりの格好で木の根元にしがみついて、声を殺して小さくなっていました。
 3人で、しかも知らない人が混じっていてはさすがにいつもの気の強さは影をひそめてしまったようです。おかげで測量はスムースに進行し、何事もなく終えることができました。
 通常は気が強いオスですが、島に上陸しない限り、そばを通れば必ず鳥がさえずるような声であいさつしてくれます。島の一番高いところに登れば、遠く離れたところにある、私が出入りする類人猿舎の入口が見えますが、そこを通るたびごとにもあいさつの呼びかけをしてくれます。
 危険な面とは裏腹にこんな可愛い一面も持っていて、案外ニクめないヤツでもあるのです。
(池ヶ谷正志)

« 133号の5ページへ133号の7ページへ »

一覧へ戻る

ページの先頭へ