でっきぶらし(News Paper)

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133号(2000年01月)8ページ

病院だより「マンドリル(ナナ)との根比べ」

 マンドリルのオスは、体つきの大きいこともさることながら、その見事な色彩が来園者を驚かせています。顔面の赤と青のコントラストはもちろんのことですが、それをあごひげの鮮やかな黄色がまた引きたてます。下半身の見事なバイオレットがかったブルーとそれを取り巻くスカーレットは、きれいな色彩を誇るグエノン種のサルも及ばないことでしょう。
 しかし一方、メスは体つきもオスの半分さえもなく(ナナちゃん約11kg)、鮮やかな色彩も持ち合わせておらず、オスよりずっとくすんだ色です。
 食文化は大変なもので、雑食家の王様とも言うべきでしょうか。そのメニューの種類には膨大なものがあります。果物、木の実、昆虫、カタツムリ、爬虫類、キノコ類、コケ類と、彼らの口に合わないものはないようです。
 こんな生活力旺盛なマンドリルですが、当園のメス(ナナ)は、常時控えめで亭主関白のオスに従順すぎるくらい気の小さな彼女が、とうとう切れてしまったのか?オスに対抗するかと思いきや、今までの鬱積した思いを自分の足にぶつけてしまったのです。
 いつもながらオスの精力絶倫さには脱帽していました。隔日くらいの頻度で交尾行動が見られている2頭ですが、いつになってもメスのナナちゃんには妊娠の兆候が現われない。おかしいなーと思っていた頃、12月初め頃、ブルーな日が順調に訪れました。ナナのお尻の周りは鮮血に染まり、目を覆いたくなるほどでした。ナナの性周期は順調なのに妊娠しない。残るはオスに原因がと思い、飼育担当者に採取依頼、手元に届いた精液は半透明で薄く、まるで糊が薄く乾いたようなものでした。
 とりあえず検査、やっぱり!顕微鏡下にはオタマジャクシ1匹どころか、その残骸すら見えませんでした。残念、不妊の原因はオスか!男は回数じゃなくて中身の濃さだよ、と檻越しに彼を睨んだりしました。
 そんな暮れも押し迫った12月30日、ナナの右後肢2ヶ所が裂け、出血。翌日から投薬開始、翌年1月1日にも出血痕、1月4日には傷口を自分でいたずらし、傷口をますます広げダメージを深くしてしまったのです。
 翌日捕獲、右後肢甲部から足首にかけ十数針の手術、入院させました。抜糸されないようにワイヤーで縫合したのですが、翌日何本か抜かれてしまいました。そこで今度は塩ビ管を足の太さに切り、縫合面を保護しました。その次の日からは塩ビ管をかじる日が続き、5日目にはとうとう塩ビ管を抜いてしまいました。傷口はかなり治癒していました。あと10日も我慢すれば退院だナと独り言。しかし、願いは届かず10日目には傷口をいたずら。「こら、ナナ、ダメ!」大きい声はむなしいばかり。翌朝、病室の床面は血だらけ、再び7針縫合し、今度はM−キャスト(硬く固まる包帯)を足に巻くことにしました。数日後、キャストをはずしてみると、足首の所にキャストが食い込み、肉が露出、「アー」獣医2人で顔を見合わせ、言葉に詰まってしまいました。
 最後に登場したのが、ポリキャスト(湯の中で温め、柔らかくして形を固定)で、苦労して足の角度にあわせ装着、あと10日間我慢と祈る思いで診療台の上で麻酔で眠っているナナを見つめてしまいました。
 3月9日、なんとかポリキャストをはずす日が来ました。傷はきれいに完治。ラッキー!
 晴れて3月17日退院。長い間お疲れ様でした。再び入院することがないようにと祈り、見送りました。
(海野隆至)

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