でっきぶらし(News Paper)

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29号(1982年09月)3ページ

自然保護

(八木智子)
「自然保護」という言葉を、皆さんは新聞、テレビ、あるいは本等で、見たり聞いたりしたことが何度かあると思います。そして、この言葉をどのように理解されているでしょうか?以前は、「山林を伐採し、開発がすすめられ、あるいは、干拓や埋め立てがおこなわれていく現状を知り、そこで生活していた動物達が生きてゆけなくなってしまって、かわいそう。」となげき、自然をとりもどそうと、叫んでいたような気がします。しかし、今はもっと複雑化されていると思います。
人間は、環境をつくりかえて自分達の生活がより能率的に営まれるよう努力してきました。作物の収穫を多くするために品種改良や農薬を使うようになりました。大工場を建て、大量生産をはかりました。そして、いらなくなったものは、目の前からきえれば良いと、河川に流し、海に捨ててきました。そして、生物濃縮による有機水銀やDDTなどの動物組織への蓄積の事例が、熊本県の水俣病、新潟県阿賀野川流域のイタイタイ病など、人々の間に大きな問題として、とりあげられてきました。
「地球は、人間が何をやっても回復しうるほど無限ではありません。」
今回は、動物界、特に哺乳類と鳥類の現状についてふれてみたいと思います。
分類学が、ほぼ確立した1600年以降に、4226種の哺乳類が記録されていますが、現在までに36種が滅亡し、120種以上が絶滅の危機にさらされています。また鳥類では、8684種のうち、滅亡したもの94種、危機にあるものが187種あるといわれています。
ある野生鳥獣が衰退し、やがて絶滅してゆく原因は、大きくわけて自然的なものと、人為的なものがあると考えられています。自然的な滅亡とは、環境の変化に対応できなかった場合とか、進化の過程とかをさします。
次に、人為的な滅亡とは、次にあげる6項目が考えられています。
(1)肉・脂肪・皮・卵の利用のための狩猟
ラッコ・アザラシ・アホウドリ等
(2)スポーツ・レジャー・記念品製作・貿易などのための狩猟
アメリカバイソン・ワシ・タカ等
(3)迷信・証拠のない害獣駆除・効果不明の薬用など
アルプスアイベックス・ツキノワグマ・ハナシカ等
(4)伐採・干拓・埋立てなどによる生息場所の破壊
オランウータン・キツネザル・タンチョウヅル・沖縄のノグチゲラ等
(5)ヤギ・イヌ・マングースなどの移入による動物相の撹乱
最も深刻な撹乱が見られたのは、真獣類がほとんどいなかったオーストラリア・ニュージランド・タスマニアなどにおけるヒツジやウサギ、キツネなどの移入によって、小型の有袋類はおそわれ、大型有袋類は、牧場の開発で住む場所がなくなり、食物もなくなってしまったことがあげられます。
(6)移入動物からの病気の感染

以上の事項をみてみると、なんと人間本意の考えから、多くの野生鳥獣を滅亡に追いやってしまったものかと考え込んでしまいます。この中でふれたラッコやアメリカバイソンそして、タンチョウヅルなどは捕獲の禁止、そして保護区を設けたことで、少しずつ生息数がふえていることをきくと、なおさらこの現状を認識し、これ以上被害をださぬよう努力していくことが人間に課せられた責任だと思います。
日本でも、自然保護に関する法翌ヘいくつかありますが、残念なことにまだまだ守られていないのが現状です。
また、自然保護は動物園の存在する役割の一つとなりますが、釧路動物園のタンチョウヅル、東京のトキ、そして広島市安佐動物園のオオサンショウウオの調査ぐらいで、全国のほとんどの動物園が、フィールドとのつながりがないまま、傷ついたり、衰弱して持ち込まれてくる哺乳類や鳥類を保護収容し、回復をまって放すことを細々とやっているのが現状です。実際に活動をしているのは、民間のボランティアの人達で、これでは、金と人に限界があります。このままでは、ますます現状の把握が遅れるばかりです。
私達人間も動物の仲間です。魚や鳥や動物が生きてゆけない状態では、私達も生きてゆけなくなります。そうならないように、もう一度動物の生態を考えた上での対策を望み、私達一人一人どうしたらよいか、かんがえてみることも必要ではないでしょうか。

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