でっきぶらし(News Paper)

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29号(1982年10月)5ページ

チンパンジーの受取り 〜多摩動物公園より3頭贈られる〜

(小野祐典)
− 昭和54年4月14日 −
私は、チンパンジー3頭を引き取りに東京都立多摩動物公園に行きました。
これまで、当園でもチンパンジーを開園以来飼育していましたが、開園10周年を記念しゴリラを飼育することになり、今までのチンパンジー舎をこわして新しくゴリラ・チンパンジー舎を作る事になりました。この間、チンパンジーを収容する室もないことから放出する事にしました。そして再び開園10周年記念として、多摩動物公園からチンパンジーが寄贈されるという話がまとまり、馴れる為に早目に引き取りに行くことになりました。
寄贈されるチンパンジーは3頭で、パンジー、デージーがメス。ポコがオスです。パンジーは昭和46年8月22日に多摩動物公園で生れ、生後1年8ヶ月で親から離され、芸を教えられていました。デージーは、昭和46年9月6日に同じように多摩動物公園で生まれ、生後1年2ヶ月で親から離され、パンジーと一緒に芸を教えられていました。ポコは、昭和47年7月22日に多摩動物公園で生れ、群の中で育ったものです。私が引き取りに行った時点では、パンジーとデージーが7才、ポコが6才でした。
さっそく、チンパンジー舎に行き、3頭のチンパンジーを見ましたが、すでに3頭は他の群とは別室で飼育されていました。その日は、3頭収容されている室の前で見ているだけでしたが、見知らぬ人間がいると思って?私に対し水をかけたり、威嚇する行動が見られました。
翌日、多摩動物公園の担当者である吉原氏が、「中に入って掃除をしてみるか!」と私に言ったので、吉原氏も一緒に室に入るものと思い、「はい。」と答えました。
デッキブラシとホースを持って、第1扉を開けて入ったところ吉原氏は入らず、外から鍵をかけてしまったのです。“檻の外から見ていてくれるんだな!”と思い、第2扉を開け3頭のチンパンジーがいる室に入っていきました。第2扉を閉めると、吉原氏が見えません。彼は他の仕事に行ってしまったのです。馴れていないチンパンジーの中に残された私は、一瞬不安になりましたが、“心ではドキドキ、顔は無理に平気な顔をしニコニコ”。3頭で私を襲ってきたらどうしようと思いながらも掃除を始めました。私の気持ちとは裏腹に、3頭のチンパンジーは見馴れない人間が入ってきたので、おじけづいたのか?室のすみに寄って抱き合っている。チンパンジーの動きを注意しながら、ホースで寝室を水洗いしていると、私の様子を見ながらパンジーが恐る恐る寄ってきてデッキブラシに手をかけてきました。知らん顔していると、デッキブラシを持ったパンジーの手に力が入ってくるのがわかりました。どうしようかと思ったが、私の最大の武器となるデッキブラシを渡してしまいました。ひととおり水洗いをすませた後で、私がパンジーに「よこせ」(強い調子で言ったつもりでも弱々しい)と言ったら、すなおに渡してくれました。これだけの事で私も少しは自信を持つことができました。デージーとポコは、最後まで寄ってくるようなことはありませんでした。
どうにか無事、掃除を終え第2扉を開け外に出た時には、これまでの事が1時間にも、2時間にも感じられました。実際には15分〜20分ぐらいだったのに!吉原氏に掃除を終えた事を告げ、第1扉を開けてもらい、今までの事を話すと、吉原氏は「もう、このチンパンジーは日本平動物園のものであり、貴男がボスとしてこれから飼育していかなければならないという自覚があったから、一人で掃除をやらせたんだ。」と言った。ここは日本平動物園でもなく、私にはそんな自覚もなければ、入れる自信もなく、吉原氏が一緒に入ってくれるものと信じてやったのだが、あとは野となれ山となれで、半ばやけくそでした。
チンパンジーと同じ室に私が1回入ったというだけで、チンパンジーの私に対する態度が、“がらっと”変わったのには私もびっくりしました。檻の外から、私が来いといえば来るようになり、背中を向け、さわったり、くすぐったりしても平気で、威嚇する事もなくなり、完全に信頼関係ができました。
その日の昼には、麻酔により眠らせ、輸送箱に収容しました。翌日、吉原氏と共に付きそい日本平動物園に無事着くことができ、獣舎に収容しました。当園に来てからも、チンパンジーと私の信頼関係は一層深まり、病気の時の投薬、出産した後の掃除及びヘソの緒を切りに中に入って仕事ができるまでになりました。
これまでに、パンジーは昭和55年11月12日に出産しました。生れた仔は生後4ヶ月目に肺炎で死亡してしまいました。デージーは、昭和57年1月3日に流産してしまいましたが、これからも努力して、チンパンジーの繁殖に力を入れ大家族にするのが私の夢でもあります。

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