でっきぶらし(News Paper)

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30号(1982年11月)8ページ

モンキー舎だより (その1)

(松下憲行)
動物園に何度か足を運ばれた方は、正面のフラミンゴから、間をおいてキジ舎、類人猿舎があり、モンキー舎がライオン・トラ舎に向かい合って並んでいるのを御存知だろうと思う。ゾウ、キリンあるいはゴリラのように、派手な人気はないが、この小さな愛くるしい動物は、動物園の隠れた人気者と言えるかもしれない。
現在、ニシクロシロコロブス(キングコロブスの1亜種で、西アフリカに生息し、木の葉を主食にしている。樹上の生活に適応して手の親指がなく、胃も他のサルと違って数室に分かれている。)、シロガオオマキザル(中南米に生息する。尾に強い把握力があり、知能程度が高いことて知られている。食性は、動物質を好む傾向がかなり強い。)、ダイアナモンキー(西アフリカに生息する。額の三日月模様の美しさからダイアナ、すなわち月の女神の名を頂戴している。体型もかなりスマートなサル。気品もある。印象の割には気が強い。)、ブラッザグェノン(ダイアナモンキーと同じグェノンの仲間で、木に登るよりも水の中に潜るのが得意なサル。中央アフリカを中心に幅広く生息し、比較的丈夫で飼い易い。)、ニホンザル(マカクの仲間で、最も北方に生息することで知られている。気性は荒いが、雑食性で何でもよく食べ飼い易い。)と5種15点を飼育し、ここ数年、これらの顔ぶれはほとんど変わっていない。今年1年、1年を振り返るのはまだまだ早過ぎるのだが、いろいろあったなあ、出産は不作だったなあと、全体に年を取って来たかなと思わせることがあった。それらを順々に振り返って見ると・・・。

◆ブラッザグェノン 仔の入院◆
3子目の妊娠、出産(昭和56年5月13日)が早過ぎたのが原因なのか、2子目(昭和55年7月16日生まれ)の成長が悪く、昨年生まれた子にもう追いつかれそうになっている。2頭が組んだり離れたりして遊んでいる時など区別するのが大変で、動きそのものがやや勝る程度、体格はほとんど変わらない。その内、動きでも下の子に押され気味になってしまい、とうとう入院させざるを得なくなったのは、3月3日であった。
その後、5月3日に第4子目が生まれ、入院した2番目の子も目立って大きくなって来てはいないが、まあ餌もよく食べていると言うことで、ひとまず落ち着いた。

◆シロガオオマキザルの出産◆
次の出産の楽しみは、ダイアナモンキーか、他はうまれそうもないな、そう思っていた矢先まさかのシロガオオマキザルが、6月18日出産したのである。
その前日、他のキーパーと話しをしていて、「こいつは生まれそうかよ」「だめだよ、ここ数年生まれていないし、このやせ方じゃしょうがあるまいよ。第一もういい加減年の婆あだよ」とこきおろした翌日の出産。馬鹿にすんなよと言っているようであった。
残念ながら、子は次の日に死亡してしまったが、それにしても、出産能力の期間の長さには驚かされた。ガリガリのやせた体で、よくも生んだものだ。しかもこの個体は過去に2頭の子を生み育ててはいるが、その歩みは尋常ではなかった。
開園当初より、体が弱かっただけではなく、成熟してからも、流産、死産を幾度となく繰り返し、子をまともに生めなかったのである。後から考えると、餌のバランスに問題があったり南米産のサルを飼育する心得として、もう少し留意すべきものがあった。が、私たちの飼育技術がまだ未熟な中では、なかなか細かいところまで配慮が行き届かず、何とかかんとか、2頭だけでも繁殖に導けたのだった。だから、もう如何にせよ諦めていた。それがまた生んだのである。
皮肉なことに、育つのはオスばかりで、喉から手が出る程欲しいと思っていたメスが生まれると、あっさり死んでしまう。こればかりはその時の巡り合わせ、不運と諦めるしかあるまい。(次号に続く)

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