でっきぶらし(News Paper)

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42号(1984年12月)3ページ

良母愚母 第二回【コンドル(いつか母に託して)】

 もし、仲よし夫婦ベスト10を組むとするなら、このコンドル夫婦は、間違いなくランキング入りします。それほど仲がよいのです。独身者が見ると、妬けるぐらいではないでしょうか。
 展示されるようになったのは、もう十年以上も前のこと。仲がよいと言っても、産卵し始めるまでには、数年の歳月を要しました。一見そう神経質でなさそうに見えても、本来はクジャクを展示する施設。そんなに広くないところで飼育係としょっちゅう顔をつき合わせねばならなかったのですから、それぐらいかかったのも当然かもしれません。
 陽気がよくなり出すと共にディスプレイが始まり、初めての産卵したのは三年前のことです。親まかせにした結果がどうなったのか、“でっきぶらし五号”を思い出して頂けるでしょうか。私自身、動物園の一年のシリーズを手掛けて一番最初に書いた記事です。忘れようもありません。ふ化に至らなかった無念も鮮明です。
翌年から、卵は取り上げる方針に変わりました。不備な環境の中で無理に抱かせるよりは、より確率の高い孵卵器に託そう、と言うことになったのです。これも“でっきぶらし十七号・六月のまとめ”に書かれています。
 当時としては、横浜市野毛山動物園に次いでのふ化成功でしたから、例え人工育雛でも喜びに湧き返ったのは無理からぬ話です。私自身、写真を撮りに撮りまくって、後で自らののぼせぶりに驚いたものです。
 ふ化、育雛は、その次の年も成功しました。更に今年も。今年はふ化までには至りましたがどう言う訳か、その後急激に体重が減少して三日後に死亡。「内臓かどこかに疾患があったのではないか。ふ化直後体重は多少減るが、あれは異常だった。」と、二羽の雛を育てあげた担当者が語ったのを覚えています。命を育むことのむつかしさ、毎度のことながらつくづく感じさせられた“ひとこま”でした。
 そんな苦労をしながら、とにもかくにも二羽育てあげられました。オスとメスの違いも見ることができました。そろそろ親に託してふ化を試みては、と思えてきます。彼らの落ちつき、仲の良さを見ていると、それは決して冒険ではない筈です。ましてや“すりこみ”のことを考えると、その思いは切実になってきます。
 今のままでは、仲の良い夫婦であっても、良母・良夫とも愚母・愚父とも言い兼ねます。彼らにその力を全く発揮させていないのですから。

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