でっきぶらし(News Paper)

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42号(1984年12月)5ページ

良母愚母 第二回【ダイアナモンキー(前半愚母、後半良母)】

 世代の交代が、順調に進んでいるところのひとつです。かつての連れ合いを二年前に失い、おばあちゃん臭くなった彼女に、もう昔の勢いはありません。
 隆生を誇った頃、彼女はどのぐらいの子を産んだのでしょう。昭和四十八年五月に始まり、計七回。最近の流産も含めれば、八回に及びます。結論としては、前半愚母、後半良母。そう彼女は、最初育児ができなかったのです。“ぐうたらママワースト10”の中でも第五位にランクしました。そのぐうたらぶりから変身するのでを追うと…。
 最初は、抱くこともせずに放棄し、頭蓋骨骨折で死に至らしめました。以降、人工哺育が繰り返されること三回。特に三回目の時、いくらなんでも落ち着きがでてきてもよい頃なのに、取りあげるまでの経過は目を覆いたくなる程でした。
 すり傷があちこちにできるぐらい引きずり回し、挙句に水飲み場へジャボン!!子は半死半生のめに遭わされて、息も絶えゝでした。そして人工哺育に切り換えてから三日後に死亡しました。いささか力が抜け、これは永遠の愚母の誕生、その時点ではほんとうにそうなると思ったぐらいでした。それがどうやって!?オスの愛情が目覚めさせた、と言っていいでしょうか。
 五回の出産の時、少しタイミングがずれて、オスと分けるのが遅れました。と、その時の彼女の態度です。子の抱き方は危なっかしいものの落ち着きが見えるのです。今までにはない落ち着き方なのです。これは、ひょっとしたらひょっとして…。落ち着いているならと、一切を彼女に任せました。無論、オスも一緒です。子を取りあげる為ならともかく、子育てに何で分ける必要があるでしょう。むしろ、彼女を安堵させるのに欠かせない存在です。
 その子育てを通じて彼女自身が一人前になっていったと言えるでしょう。人工哺育は、サルをだめにします。何と言っても、産んだ“当の本人”が育ててこそ値打ちがあります。飼育係が連れて歩く愛らしさよりも、親子で仲睦まじいほうが自然でかつ微笑ましさも、子の愛らしさも、格段上です。
 無事に産み育てあげたのは、わずかに二頭。でも、その二頭共にメスで、長女のほうは、一昨年来園したオスとの間に早くも子をもうけています。母親にしっかりと育てあげられた個体だけに、愚母ぶりを繰り返すようなことはなく、初産から見事な子育てぶりを見せてくれています。良母の所産は、良母だったと言う訳です。

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