でっきぶらし(News Paper)

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42号(1984年12月)7ページ

良母愚母 第二回【ニホンザル(良母なのだが…)】

 過去に四度出産。飼育係に迷惑をかけるようなことはなく、全てしっかり面倒みてきたのですから、その辺は立派です。が、そう言い切れるのは育児に関してのみです。オスとメスは仲よくなるものだ、仲よくなって当たり前だ、とブラッザグェノンのところで話しました。それではニホンザルはどうなる、はたまた考え込んでしまいます。子供ができるのがその証明とするなら、なおさら考え込んでしまいます。
 私自身、サルを担当すること七年余り。代番(担当者が休みの時の代わり)の年数まで入れると、経験年数は十三〜四年に及びます。その中で身に沁みているのは、サルは喧嘩する動物だということです。ペアで数年飼育されて、トラブルを起こさなかったのは、ひとつもないぐらいです。
 それにしても、ニホンザルはひどすぎました。オスに咬まれて尻だこを二針縫った、左手を咬まれて全治二週間、背中を咬まれ入院等が、日誌のまとめを見るとでてきます。小さな怪我、喧嘩に至っては、数えてもきりがないぐらいです。
で、不思議なのは、その間にちゃんと子供をつくっていることです。二年に一度のペースで比較的規草ウしく春か夏にうまれてきました。オスも子供には寛大だったようで、誰がやったかわからない怪我(四針縫合)が一度あっただけです。
 頻繁に起こすトラブルの原因らしいものを、数年前に一度見たことがあります。当時、担当を離れていて、オランウータンの寝室にいた時のこと。夕食の時間になり、二頭が勢いよく寝室に入ってきて、それぞれ餌を食べようとしました。その時、オスが怒りました。優先権を主張しているようです。でも、メスは認めようとしません。更に怒ったオスと、もう餌はそちのけで、キックボクシングのように跳ね合っての喧嘩となりました。しばらく「ガッガッ」「ウォッウォッ」と低い唸り声を出し合って…。あれじゃあやられちゃう劣位の態度を示さないのだから、とその時率直に思いました。
 オスは、メスより四年遅れてきたのです。しばらくは押さえられ、劣位に甘んじるを得なかった時期もありました。メスにはその意識がいつまでもあったのかもしれません。
良母ぶりはともかく、あまりいい妻ではなかったようでした。
(松下憲行)

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