でっきぶらし(News Paper)

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43号(1985年02月)4ページ

良母愚母 第四回【キリン(良母から大いなる愚母が…)】

 動物園になくてはならない動物のひとつ、キリン。ぐうっと空に向かって伸びる首。大の大人が背伸びしても及ばない程の脚。締めて五m以上あります。その雄大さに、自然と人を引き寄せ、人気を集めるのでしょう。
 親でそれぐらい大きいのなら、赤ちゃんの時分からもずいぶん大きいのでは、と思われるでしょうか。そう、まさか「おぎゃあ」とは言いませんが、産まれてすぐに立った時点で、おおよそ一m八十cmぐらい。世界一のっぽ動物の面目躍始たるところです。
 この大きさ、私の娘の話で恐縮ですが、「お父さん、キリンの赤ちゃんって大きいのね。だって飼育係のおじさんが、おっぱいを飲ませる時、背伸びしてやっと届くんだものね。」と、スライドでキリンの哺乳シーンを見て、驚いて語り語りかけてきたことがありました。
 子供の新鮮な感激はともかくとして、そのスライドのシーンは、バイソンの時には一度も出てこなかった話です。ここには、愚母が存在することになります。
 三年前に想像もし得ない事故で死亡した初代のメス、タカコは、立派な母でした。初産こそ分娩日をうまく予想できず、落ち着かせられないで、飼育係共々多少とまどうことがあったものの、以降は順調そのものでした。
 そうして育てられた中の一頭がトクコです。彼女自身、母親の分娩には幾度も立ち合っています。母親が、産まれたばかりの子を慈しむ姿を、いやと言う程見てきています。それが、自分が子を産んだ時には、いきなりハイキックを見舞うとは、いったい全体どういうことでしょう。この話を聞いた時には、全く信じられませんでした。
 初産だから落ち着きを失ってそうなったんだろう、担当はそう自らに言い聞かせ、次回は立派に育ててくれることを期待したと思います。が、二度目も大きく期待を裏切りました。いきなりのハイキックこそ見舞ったりしなかったものの、子が乳を欲しくてそばへ寄ると、逃げていってしまったのです。
 動物園の一年の中で語ったでしょうか。育児がうまくなったのは、キリンではなくて飼育係のほうだと。全く笑い話にもなりません。まあ、飼育技術の進歩としては、評価できるものはありますが、決してすっきりする話ではありません。
 何故、トクコは母親の育児をさんざん見ておきながら、自ら育てようとしないのでしょう。不思議でなりません。担当者にも、その疑問をぶつけてみたことがありました。が、何とも不明朗な話が展開するだけで、結局は「分からない」で終わってしまいました。
 二月二十日が、三度目の予定日です。また人工哺育になるのか、否か。否のほうであって欲しいものです。そろそろ母親としての自覚に目覚めて欲しいものです。永遠の愚母の誕生なんて、全く冴えない話ではありませんか。

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