でっきぶらし(News Paper)

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44号(1985年04月)4ページ

良母愚母 第五回【エリジロオオヅル(良母も鬼に変身する)】

 今はおりません。将来構想の枠から外れ、タンチョウにその座を譲り、消えてゆきました。しかし、繁殖の夢はとなると、最大、最高に実現。楽しい子育て日記を幾度となく綴ってくれました。
 季節感覚も素晴らしいものでした。春を敏感に察知し、まずは巣作りから。産卵からふ化まで毎年そうずれることはありませんでした。一番初めこそ九月の中旬であったものの、後は六月の中旬から八月の中旬までの間に、十数年間に及びながら、それは決して崩れることはありませんでした。何処でどうやって四季を感じ分けたのか、不思議な気もしてきます。
卵を取り上げたりすると、幾つも産みますが、常識的には二卵。それを一ヶ月余に渡って、夫婦交換し合いながら温め続けるのです。その間に、ちょくちょくくちばしで卵を動かす動作が見られますが、これはいわゆる転卵。卵の呼吸を助ける大事な行為です。
 こうして二羽のひながかえるのですが、その仲は決してよくありません。お互いを見るや否や、すさまじい闘争を始めるのです。ですから、二羽とも親に育てられることはまずありません。当園においても、二羽かえり、二羽共に親に育てられたのは、二〜三度あっただけでしょうか。
 自然の厳しい環境の中でも、生命を賭けての闘いにならざるを得ないのかもしれません。
 母親や父親は、これ以上ないという程の細やかな愛情を注ぎます。どんなにおいしいものがそこにあったとしても、自分が食べるのではなく、まずひなに与えます。食べにくいものなら、食べ易くして与えます。
 そんな溢れんばかりの愛情を注がれて三ヶ月も経てば、親をもしのぐぐらいに大きくなります。ひなの面影を漂わせているのは、ほんの一ヶ月ぐらいです。これはオオヅルばかりではなく、鳥類全般がそうです。ただ色彩だけはくすんでおり、一人前でない様がすぐに分ります。
 それ程の愛情を注ぐ親も、ある一の時期が来ると、態度は一変します。豹変ならぬツル変。いや豹変とは本来、精進して立派になることの意味です。鬼に変身することの意味なら、ツル変こそ最適。
 一人前になったと判断すると、自らのテリトリー内にいることを許さなくなります。情容赦はありません。これがあの親かと見間違うぐらい、激しい攻撃を加え始めます。一番最初の子は、それがショックで拒食に陥り死亡。以後、それを繰り返さない為に、四〜七ヶ月ぐらい経ったところで、子は放出されるようになりました。

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