でっきぶらし(News Paper)

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46号(1985年07月)5ページ

良母愚母 第6回 ◎グラントシマウマ(稀代の仲悪夫婦からバトンを受

 今、シマウマ舎を見れば、か細いまだどこかに幼さを残したオス、メスの計2頭がいます。ここで産まれた個体?いいえ、そうではありません。新たな繁殖を願って、新たにやってきた若いペアなのです。2〜3年後に期待が持てそうです。 
 「前にあんないいオスがいたのに、どうしてこんな若い個体に入れ替えてしまった。」「わざわざそんなことをしなくてもいいではないか。」と疑問の持たれる方もいるかもしれません。確かに前にいたオスは毛づやも良く、体格も立派なオスでした。
 しかし、まあ聞いてください。メスを大事にしないオスに、どれだけの価値があるでしょう。発情が来て、交尾するのならともかく、そんな姿勢を示すどころか、いきなり咬みつきにかかったのです。餌だってまともに食べさせようとはしなかったそうです。メスはしょっちゅう傷だらけで、放出する半年くらい前からは、同居させられない状況になっていました。
 そんなに仲の悪いペアを置いて、どうして繁殖の夢が持てるでしょう。オスとメスを別々に分けて、ただ死ぬのを待つだけになってしまいます。そんな空しさの所業を断つために、若い新たなペアに入れ替えられたのです。
 ところで、冒頭に新たな繁殖を願って、と書きました。そうです。日本平動物園にとって、シマウマの繁殖は全くなかった訳ではありません。遠い過去のことながら、もう10年以上経っているでしょうか。サクラとキクと名付けられた2頭の子が産まれたことがあるのです。私自身、かすかな記憶ながら親子でいたのを憶えています。
 「それは、どうなった。」と聞かないで下さい。が、ここまで書いたのなら答えない訳にはいかないでしょう。サクラは、確か2才ぐらいの時にフェンスに激突して死んだと思います。
 そう、シマウマには、どうしてもこの種の事故がついて回ります。“激突”を最も恐れなければならない動物なのです。シマウマ舎の西側にグリーンにぬった板がびっしりと張りつめてあるのをご存知ですか。そんな事故が続いた為に、ああすればぶつからないのではないかとの苦肉の策として施されました。
 幸いそれを張ってから、その種の事故はなくなっています。若い新たなペアに入れ替わった今、久しく見ていない親子が仲睦まじくしている光景を、そろそろ実現可能な夢として見なしてもよい頃でしょう。

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