でっきぶらし(News Paper)

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52号(1986年07月)8ページ

思い出の動物達◎バーバリシープ

人気のあるなしはともかくとして、動物園へ来て最もありきたりな動物のひとつにバーバリシープがあげられるでしょうか。丈夫さもこの上なく、何処ででもどんどん増えています。
当園にしたところで、元は二頭、それが十七年の歩みを経て、出しても出しても十数頭が群がる賑やかな一家となったのです。
現在は、ボスらしいボスがいないややしまらない一家になっていますが、ここはボス争いがもっともし烈を極めたところです。もう四〜五代はゆうに入れ替わっていると思います。
担当したのはわずかに一年ながら、私にとって印象深いのは、初代のボスから二代目のボスへの入れ替わり時です。
御存知かと思いますが、野生のヒツジは力比べする時には、角と角を激しくぶっつけ合います。それで互いが力量をわきまえ、序列が決まってゆくようです。
初めは若雄をしがにもかけていないようでした。体格がひと回りも大きいボスに若雄が果敢に角合わせを挑んだところで、かなう筈もありません。二〜三度であっさり追い浮?れていました。
ですが、年月は無情な力を発揮します。若者はよりたくましくなり、頂点に立った者はただ衰えてゆくだけです。
あれだけはっきりしていた力関係も、若雄の急成長にボスがたじたじになる場面すら見られるようになりました。
野生ならば、その段階でボスはすごすご引き下がってゆくのでしょうが、飼育下ではそうは参りません。それと天敵がいない安堵感が、トラブルに一層の拍車をかけます。
若雌をも巻きぞえ死させる程、トラブルが深刻となり、角を合わせあう頻度も目に余った頃、ボスに異変が生じました。
あまりにもの角のぶっつけ合いに、とうとう脳の神経をやられてしまったようで、遂にまっすぐに歩けなくなってしまったのです。
やむを得ず、動物園の奥の一室で隠居生活をさせたのですが、立てなくなる程の麻痺を起こすのもしばしば。そんなことを繰り返す内に他界しました。若雄もボスとなってからの何年か後、やはり、初代ボスと同じような運命を辿ってゆきました。皮肉といえば、皮肉。ボスに立つ者の宿命と哀れさを感じずにはいられませんでした。

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