でっきぶらし(News Paper)

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55号(1987年01月)7ページ

動物の食べ物 第五回【マレーバク】

 神様が七ツの動物を寄せ集めて作った、そんないわれを持つ動物だけに、一見チグハグな鼻や目が何ともいえぬ面白さを誘います。ですが、上っ面だけでの判断は禁物。どんなにひょうきんでおとなしい動物でも、とてつもない攻撃力を秘めているものです。
 おとなしい!?そう、れっきとした奇蹄獣の仲間で草食獣です。神様が七ツの動物を寄せ集めてうんぬんがあるだけに、雑食かと思われたでしょうか。
 扱いは、先程のシマウマとはさして変わりません。が、繊細な部分を持つからでしょう。待遇はちょっぴり上です。とフスマ(ビタミン、ミネラルが豊富)、ヘイキューブ(草を固めたもの)、更にはリンゴまでプラスされているのですから、見ようによってはちょっぴりどころか大いに上でしょう。まあ、絶滅の危機に瀕している動物、これぐらいの好待遇を受けてもいいではありませんか。
 それらのエサには、当然、微量ながらも塩分やカルシウムも添加されていますが、かつては塩分の補給はかれらの好きにさせていました。覚えございませんか、レンガのようなものをなめたり、かじったりしていたのを。(たいていのお客様はそう呼び、驚かれていた。)もちろん、レンガではありません。鉱塩、ミネラルを多く含んでいる塩で、他のいろんな動物にも与えられています。
 ところが、マレーバクときたら、ほどほどにすればよいものを、四六時中ペロペロ、ガリガリやるものだから、担当者はその内たいそう心配し始めました。「今は、若いからまだいいだろう。が、歳を取るにつれての積み重ねが恐い」と。いうまでもなく、塩分の過剰は高血圧を招くだけでなく、腎臓にもたいそう負担をかけます。担当者の心配はもっともなことです。
 で、どうしたかって?無論、取り上げられました。そうしてせっせと始まったのは、担当者の鉱塩潰しです。潰してふつうの塩のようにして、エサに混ぜて与えるようにしたのです。これなら決して過剰になる心配はありませんから、まずは一件落着!!といったところでしょう。
 草食獣を扱っていって「エッ」と驚かされることは他にもあります。
 「汚ない水」が好きなことは、その最もたるものでしょう。いくらきれいな水をおいてあげても、雨が降ったりして放飼場に汚ない水の水たまり、ウンコもオシッコも入り混じった水たまりができると、余端にきれいな水は無視されてしまうのです。
 一見すると担当者がきれいな水を与えない、手抜きにも思えますが、それはとんだ誤解です。私の担当しているアクシスジカにしたところで更にはコケまで生えている水をチューチューと実においしそうに飲みます。いやはや全く恐れ入り、それによくお腹を壊さないものと、あきれかえりもします。
 それと木の葉に対する嗜好。以前にも述べましたが、なかなかつかみ切れないものがあります。
 マレーバクの赤ちゃんの成長記録を撮っていた時、ある木の葉をなめたりしゃぶったりしていました。草食獣の赤ちゃんの離乳は、早く一週間も経ればもうミルク以外の何かに関心を示す為、そのこと自体は不思議に思わなかったのですが、問題は木の葉の種類です。それは、ふだん私達が敬遠しているスズカケの木の葉だったのです。
 雑木林に生えている木、カシやクヌギやカエデ、それにヤナギの木の仲間は、草食獣に限らず、サルまでが好むことは知っています。偏見でしょうか、スズカケの木の葉のいかにも苦そうな色に、私に限らずたいていの飼育係は与えようともしていませんでした。
 しかし、とんでもない間違いでした。それにこの木は非常によく生い茂ります。担当者は、なかなか“いい木”に目をつけたものです。その辺は年季の入り方が違っていたようでした。
(松下憲行)

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