でっきぶらし(News Paper)

一覧へ戻る

« 55号の7ページへ55号の9ページへ »

55号(1987年01月)8ページ

子育て奮闘記 パート?T ヒョウの巻 

川畠実
 ヒョウ太、マサミというともちろん人工哺育で育ったヒョウの兄妹です。この兄妹の母親の名はヨッコ(一代目のヨッコは、昭和五十五年十二月二十六日病死。現在二代目ヨッコ)と言います。ヨッコは、若くして来園し、これまでに三回の出産歴があり、六頭の子宝に恵まれています。しかし残念ながら自然育児例はなく、一回目は出産して三日目に行方不明(たぶん食殺)、そして二回目、三回目は人工哺育を行なっています。
 父親の名前はゴローといい、開園以来の個体で猛獣舎の中にあって最古参で、今もってその威厳を保っています。しかし最近では、冬の寒さがこたえたのか、その動きは今一歩といったところです。現在までに数頭の父親となっていますが、となりの獣舎に飼育されているクロヒョウのオスの父親でもあります。
 昭和六十年五月十三日に二代目ヨッコが初めて出産しました。ヒョウはとても信性質な動物なので、あまりのぞくことはせず、子のなき声だけで生存を確認していました。三日目産室の前にたってじっと耳をすませていてもなんにもきこえてきません。思いきってのぞいてみることにしました。すると子の姿はまったくありませんでした。
 なんとかヒョウの子を育てたいという願いから、昭和六十年九月二十八日に生まれた個体は、直ちに病院に移され、一通りの検査を行なった後、パネルヒーターで保温され、人工哺育の第一歩が始まりました。ちなみに体重は五百二十gでした。丸々と太った元気の良いヒョウの赤ちゃんにも思いもよらぬ大病が待っていたのですが、一日目にして全く予期もしていませんでした。午後六時のミルクを与える時、観察していると、左側に動くような感じがしました。哺乳の時間で多分空腹の為、少し動くのかなと思いつつ抱いて乳首を口に当てると、やはり体ごと左側に回る感じです。少し落着かせたほうが良いと思い、小休止。その後一気に六cc飲み、さほど問題はないと思いました。
 だけどやっぱりおかしい。午後十時の哺乳時、自分の取り組み方が悪いのか、哺乳のやり方が馴れていないのか、又下手なのかと思いながら、ゆっくり手に力を入れず、無理をせずに哺乳しました。
次の日の朝、「首の左側が少し変です。」と引継ぎをして作業に入りました。十時すぎ、八木獣医から「首が左側に曲がっている感じなので治療を行なう」と話がありました。レントゲン撮影のあと、「当分の間頚部にサロメチールを塗布し、マッサージしよう」と今後の治療方針の話がありました。どうしてこんなことになったのか全くわかりません。このような事故には特に責任を感じます。スプレー塗布とマッサージは哺乳後に行ないました。幸い頚部の曲りは一週間程で目立たなくなりました。
 このヒョウ太君はなぜか健康にすぐれず、下痢状態が続いたりね哺乳後元気な動きが見られないなどいろいろありました。でも四十日令すぎた頃から徐々に元気がでてきました。
 一方マサミの方は昭和六十一年八月二十五日に生まれ、二度目の人工哺育です。体重は四百十gでした。出産したあとの検査を終え、哺育箱に移されました。ヒョウ太とマサミの体重の差は百十g。生後五日間の哺乳量を比べてみると、一日令で七十四cc、二日令で百三十九cc、三日令で百十五cc、四日令で八十五cc、五日令で六十五ccとヒョウ太の方が少なかったのです。その為五日令の体重は、三十五gヒョウ太の少なかったのです。
 又、目があいた時期は、マサミの方が三日程はやかったです。歯がはえ始めたのはほぼ同時期で、その後のはえ方もあまり差はありませんでした。
 身体の具合が多少悪いといっても、いつまでも甘えていません。ヒョウ太の離乳は八十四日令で、マサミは九十七日令とちょっと長かったようです。離乳後は病院のライオン舎内に移りました。一足先にライオン舎に移っている兄のヒョウ太は、もはや成獣に近いほどに立派に成長しています。マサミも常にヒョウ太を見て成長してくれたらと思い、十一月二十九日にライオン舎内に移しました。(ライオン舎裏側の寝室にいます。)
 十日後の十二月九日突然大事件がおきました。例によってマサミとスキンシップタイムをとり、室内の清掃を終え、ライオンのメスの室内の清掃中、飼育課長が来て「マサミが出血しているよ。」と知らせてくれました。半信半疑でかけつけてみると、部屋の隅でしょんぼりしていました。「どうした」と声をかけると、ぎこちない感じで走り寄り腕にとびついてきました。マサミ自身どうしてなぜこんなことになったのか、堪えられない痛さに茫然としていた様子でした。それもそのはず右前肢の爪傷です。ヒョウ太の爪による傷と判ります。比較的出血は少ないようですが、右前肢はだらりと垂れています。即入院で二時間に及ぶ大手術でした。全快するのは多分暖かくなる頃だと思っていました。しかし動物の回復力はすさまじいものです。わずか一ヶ月余りで、歩行、走りなどに違和感はあまりせん。多少ハンディを背負うかも知れませんが、改めて一本立ちする為に、又獣舎に戻ります。皆さんに励ましの拍手をお願いします。

« 55号の7ページへ55号の9ページへ »

一覧へ戻る

ページの先頭へ