でっきぶらし(News Paper)

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57号(1987年05月)5ページ

動物の食べ物 第七回【カリフォルニアアシカ】

 今、アシカの担当者は人工哺育で、奮戦真只中。当園生まれの当園育ちの「エル」。初産のせいもあったでしょうが、母性愛を示したものの、いっこうに授乳しようとしなかったので、やむを得ず、取り上げられた為です。元より自信があった訳ではなく、むざむざ死を待つよりもからのスタートでした。
 そう、アシカの人工哺育の成功例は極めて少ないのです。それもきちんとした形で報告例がある訳でもないので、うまく育て上げた園館に問い合わせながらです。海獣用のミルクはあまりよくない、サラダオイルを混ぜたらうくまいった、あるいは魚肉のすり身を混ぜたらよかった等々、こまかい情報をつなぎ合わせながらの、必死のチャレンジです。
 こんな苦労せざるを得ないのは、多分に、いや全て乳成分にあります。草食獣、肉食獣、あるいは霊長類によって、確かにかなり異なります。が、たいていの場合は融通が効いてそう心配するとなく乗り切れるのに、アシカの場合はうまくゆかないケースが多いのです。
 この仲間のアザラシの場合などは、哺乳を諦めて魚を蒸してだんごにして与えたほうが、むしろうまくゆくという話を聞いたことがあります。消化器系は思う以上に丈夫にできがっているのかもしれません。アシカにもそれができればいいのでしょうが…。
 野生での哺乳回数は一日一回もあればいいほうで、それで充分に栄養を摂取しているといいます。とするならば、そのミルクの成分は、相当の高たん白、高脂肪、高カロリーです。難題はこの辺にあるといっていいでしょう。
 日本平動物園では、食肉獣用ミルクにサバのすり身を加えたものを、やや回数を増やして与える方法を取りました。夜間にも与えたことがありましたが、これはほとんど効果がなかったようです。
 最初九kgあった体重は、1.5kg以上も減り、周囲をハラハラさせましたが、三週間程経てようやく元の体重に戻りました。でも、それはほんの小さなひと山を越えただけのこと。その後も嘔吐したりして体重は再び減少。困難はいっぱい待ち受けています。私も何度か、そんな苦い経験があります。
 それに下痢した場合などでも水中に排泄することが多く、気付かないでそのまま与え、後でアワを喰うケースもありました。あんまり“やせ”がひどいので捕獲して調べてみると、何のことはない下痢をして消化吸収がうまくいっていなかったのです。
そうそう、赤ん坊が産まれ、親がちゃんと面倒を見ていたのに子が死亡。胃内を調べてみたらミルクが一滴も入っていなくて、周囲をも「えっ」と驚かせることがありました。
 考えられる原因として、脂肪の少ない魚を与えていた為に、赤ん坊をお腹の中で育てるだけで精一杯、母体にミルクを作るだけの体力の余裕がなかったのではということがあげられました。その後、脂肪の高い魚に切り替えることによってそんなことはなくなったのですから、十中八、九的を得ていたといえるでしょう。
 飼育し易いといいつつも数々のあやまち、ドジがありました。知っているようで知らない食性や習性、これからも彼等の意外な一面に改めて驚かされることは多々あるでしょう。

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