でっきぶらし(News Paper)

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57号(1987年05月)6ページ

動物の食べ物 第七回【ペンギン】

 おおよそ鳥から離れたイメージを持つ動物、それがペンギンではないでしょうか。空を飛ぶ訳でもなく、それに陸をちょこちょこ歩く姿はずいぶんと人間臭さを漂わせます。社会性が強くて、何でも集団で行動したがるのもより一層の拍車をかけます。
 私たちですら、ついそんな風に捕らえてしまうのです。一般の方たちにとってはもっと不思議に思われるようで、大真面目な顔をして「ペンギンって、鳥ですか!?哺乳類ですか!?」と尋ねられることがしばしばあります。
 櫂のように変形した翼。太くやや長いかつ固くなったくちばし。少々むっくりしながらも二本足で直立できる体型。泳いだり、潜ったりすることに適応した結果そうなったのでしょうが、とまどらせるようになったのは事実です。実際に飼育し、接しても、タマゴを産む以外にも鳥らしさはなく、イメージは哺乳類に近いものを抱かせます。
 さあ、それでも食べ物、泳ぐことが得意な動物ですから、簡単に想像はつくでしょう。広い海原を自由に泳ぎ回り、魚やイカ、タコのたぐい、あるいはオキアミのようなものを捕らえて食べているのが、おのずと目に浮かんできます。
 飼育下では、どうしても一、二種類程度の魚類になってしまいますが、それでもけっこう健康に飼えるものです。
 食べ方の違いを考えて下さい。私たちが魚を食べるとするなら、まず内臓を抜き去り、それを焼くか煮るかして、更には骨までを残してやっと胃袋に収めます。わざわざビタミン、ミネラルを捨て去り、かろうじてたん白質だけを摂取しているようなものです。
 ペンギンの場合(アシカの場合も)は丸々です。内臓を抜き去ることをしなければ、骨を捨て去ることもありません。ましてや焼いたり煮たりなんてとんでもないことです。池に投げ込まれた魚を頭から全て飲み込むからこそ、一、二種類しか与えなくても栄養失調にならずに済むのです。
 恐いのは、栄養うんぬんよりもむしろ気候や風土。丈夫に飼えるといってもそれはフンボルトペンギンならではのことで、オウサマペンギンもマカロニペンギンも、五年の才月を経るか経ないかの内に次々と倒れてゆきました。
 ストレス、趾瘤症、アスペルギルス(カビが原因となる病気)、ホルモンのアンバランス?等を招いてです。餌以外の様々な要因、中でも高温多湿はかなりのダメージを招いたようでした。
 繁殖に成功したのもフンボルトペンギンだけ。それにしても決して芳しいものではありません。十数年の才月を経ながら、うまく育てあげたのはわずかに四例しかないのですから―。
 私自身も、五年に近い期間を担当したのでが、無事に育て上げさせたのはわずかに一羽、恥ずかしい限りです。
 巣内の衛生、それに餌、立ちはだかる難問にしばしば自問自答。名案が出る筈もなく、前担当者のやり方を見直したり、あるいは直接疑問をぶっつけてはよりよい方法を探りました。
 巣内の衛生は、砂を敷き、それを二週間内外のペースで取り換えることにして目安を立てたのです。が、なお考え込んだのは育雛時における親への餌です。
 前担当者のひとりは「アジは骨が固くてとても消化によいとはおもえない。野生ではもっと(注)小さくし消化が早く、吐き戻し易いものを多く捕っているのではないか」と育雛時の餌への疑問を投げかけてみました。(注:通常は十二〜三cmのコアジを与えている)
 これを唐ワえて、アジに混じって入ってくるイワシ、更に他種の小魚もできるだけ親に与えることによって、かろうじて一羽の自然育雛に成功しました。が、反省しなければならないことも山となって残りました。
 自然育雛の場合の餌、人工育雛の場合の餌、その過程における環境づくりに、ああすればよい、こうすればよい、と技術的な確立をした訳ではないのです。とにもかくにも、もう一度チャレンジしたい動物ではあります。
(松下憲行)

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