でっきぶらし(News Paper)

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57号(1987年05月)8ページ

動物病院だより

 昭和62年もはやいもので、年の半分をすぎてしまいました。ふり帰ってみますと、この半年間は、最悪の状態で、解剖記録のファイルは厚くなる一方です。どうにか流れが変わってくれないものかと願わずにはいられない心境でいます。
 さて、動物病院の中をのぞいてみますと、今年もきましたツバメ、スズメ、ムクドリなどのヒナ達、タヌキの子供がいます。そして人工哺育や人工育雛の子供達もいます。
 まずはカリフォルニアアシカの子供についてお話しましょう。このアシカは、昭和58年6月11日生まれのエルが、初めて出産したもので、5月21日の朝、元気な声でないていました。エルは、子供の体をなめ、大事そうに扱っていました。子供はお腹がすいたらしく、エルに近づき、いっしょうけんめい乳首を探し始めました。ところが、エルは腹ばいになったままで、一向に乳首を子の方へ向けてくれません。
 「エル、横むきにねてごらん!!」
中に入っていって介添保育でもしたい心境ですが、そうもゆかず、一日待つことにしました。
 翌朝、のぞいてみると同じような状態。
「あ〜あ、とるっきゃないか…」
 ただちに動物病院の一室をきれいにし、アシカの人工哺育が開始されたのです。ミルクは?どうやってのませようか?海獣用ミルクを人間用哺乳ビンで与えてみたところ、担当の池ヶ谷飼育課員のねばり勝ち。60ccぐらい自分で吸ってくれました。
 その後他の園館に問いあわせたところ、イヌネコ用ミルクとサバのすり身をジューサーりにかけて与えた方が良いとアドバイスされ、当園もこの方法に切り替えることにしました。切替えても最初のうちは問題がなかったのですが、生後 週間目にのまなくなり、水溶性下痢となってしまいました。体重も9kgあったものが7.55kgにまで減ってしまったので、とうとうカテーテルを使い、無理やり胃の中にミルクを入れ、なんとか体力を維持してくれるよう努めました。
 生後10日目後頃より再び自分で吸うようになり、体重も二日目にようやくもとにもどり、1ヶ月目で10kg。ここまでゆけばそのまま順調にいくだろうと思ったのもつかの間32日目にまず、下痢、嘔吐で再び8.8kg。担当者は休みにも3回哺乳のたびに病院にきて、ハラハラドキドキ。「のんでくれるかな。また吐いたら…」整腸剤などの注射をし、彼の体力回復にかけました。
 そんな状態が1週間ほど続きましたが、少しずつもち直し、50日目で11.3kgまで体重がのびてきました。しかしまだまだ安心はできません。なにしろ突然調子がくるいだすのですから…。この人工哺育は、悩まされてばかりいて、なんだかわけがわからなくなってしまっています。
 次いでは、ピグミーマーモセット。ピグミーは今年2度目のおめでただったのですが1回目は生まれて3日目に死亡。この時胃の中にミルクが全然入っていなかったので、ひょっとして母親の乳がでないのでは、と思っていました。6月12日朝2頭生まれていました。今回は母子の様子を良く見て、子がいつまでたってももぞもぞ動いているようであれば、とりあげようと一日様子をみていました。翌朝、子はしきりにもぞもぞ動いているので、乳はでていないと判断し、とりあげて人工哺育に切り替えることにしました。
 こちらもどうやってミルクを与えるが問題です。ミルクは乳児用を使い、哺乳ビンは1ccのガラスの注射器。乳首は、ビニール被服の線を使い、先を細かくけずり、口にあわせ作りました。
 体重は14.5gと15g。1回の哺乳量は0.2ccぐらい。量が少ないのでミルクがさめてしまわないように気を使っての哺乳作業です。1日5回のペースでやっています。
 哺育箱の中に、担当者がつくった特製のムートンの棒が入っていて、2頭の子はそこにしがみついています。そしてお腹がすいてくるとキーキーとかん高い声でないていまする
 ピグミーの方も1回下痢をし、緑白色の便を排泄し、1頭の方が体重減少してしまい、少々心配しました。けれど整腸剤をミルクにまぜて与えてみたところ、翌日から体重ももどり始めなき方も一段と強くなり、ほっとしています。
 もう一つの話題は、アンデスコンドルの人工育雛があります。昨年は、1卵目と2卵目を入れ換え(ほんとうのふ化日数は55〜57日ですが入れ換えて抱きますと、約30日でふ化)無事親元で大きくさせることができました。今年は残念ながら1卵目が無精卵だったので、うまく入れ換えることができず、2卵目をそのまま孵卵器で孵化させました。(6月14日)
 ヒナは、オスで体重は141gありました。6月15日病院の未熟児保育器の中に移し、人工育雛が始まりました。餌は馬肉や鳥の内臓を細かくして1日3回与えています。うまれた時141gであった体重も、1週令で251g、2週令で522g、3週令で858g、4週令で1380gと順調に大きくなっています。
(八木智子)

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