でっきぶらし(News Paper)

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58号(1987年07月)9ページ

オグロワラビーふしぎふしぎ 松下憲行【ふしぎパート?X出た恐怖のカン

 老オス、初代のボスといっていいでしょうか。老いさらばえて遂に死に至ったのは、もう二年も近く前のことです。
 担当者としてその解剖に立ち会って、あれっと思ったのは、左あごの下の骨がぷくっとふくれていたことでした。死因は全く別のところにありながらも、どのみち助からぬ恐怖のカンガルー病にかかっていたのです。
 ワラビーはカンガルー病、放線菌によって骨が冒されてゆく病気には滅っぽう強いといわれています。しかし、オグロワラビーは例外の部類に入ります。かつて、他の園でながらも全滅した例もあるぐらいです。
 気を病んだのは、二代目のボスとなった長男坊が、どうしてもその病気にかかっている疑いがあることでした。治せるものなら、獣医に哀願もし、咬みつきもしたでしょうが、この病気はかかってしまえばもう終わりなのです。
 最初に出るところは、あご、口の中のちょっとした傷口から、奥へ侵入してゆきます。そうして、徐々にゆっくりとあごの骨をむしばんでゆくのです。
 一番初めに長男坊のあごがおかしいのではないか、と指摘し、気がついたのは、キリンの担当者でした。恥ずかしながら当の担当者である私は、それから右あごと左あごを見比べ、左あごの下がかすかにふくらんでいるのに気がついた次第です。
 キリンの担当者が気がついたのには訳があります。その時キリンの容態が思わしくなく、あごのはれが元でエサをすっきり食べられないでいたのです。それが元で、ちょっとした動物の変化に非常に敏感になっていたのです。
 悪い夢であってくれ、勘違いであってくれの願いも空しく、間違いなくカンガルー病にかかっていました。数ヶ月後にはとても見られないぐらいにまではれ上がり、やむを得ず仲間より外し、入院させざるを得なくなってしまったぐらいです。
 後は一ヶ月に一度の割で、土壌の消毒を始めました。かかったらおしまい、かからないようにするのが、この病気の対策なのです。それ以外には、何の方法も術もあありません。
 現在、ビビの遺児である“カケミミ”が三代目のボスとして居座ろうとしています。そうすると、例によって例のごとく他のオスに対して非常に排他的になります。
 時には、餌を食べるのもやめ、徹底的に若いオスを追い回し、手傷を負わせてしまうこともあるぐらいです。カンガルー病で死んだ長男も当時のボスにずいぶんいじめられたものです。そんな話も気の赴くままに、と思えでも、紙面に限界が―。いずれの機会にお話しましょう。

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