でっきぶらし(News Paper)

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63号(1988年05月)10ページ

人工哺育抄(その?U)離乳への歩み◎ツチブタ

 「何だってね、日本平じゃ今変わったブタを人工哺育してるんだってね。」と尋ねられ、ガクッ。いえ、笑い話ではありません。赤ちょうちんで1度、園内でも1度、このたぐいの質問を受けました。 ツチブタっていうからブタの一種だろうと早合点されたのでしょう。まさか1科1属1種の生きた化石的存在の動物だなんて、関わりのない方からすれば知る由もないこと。やむを得ないでしょう。
 前回に述べた2人掛かりの哺乳、そのミルクの中身はトラやヒョウのと同じです。要は与えるのが大変で、いつ自力で飲んでくれるかが勝負だった、といっていいでしょう。
 しばしば、下痢と便秘を繰り返しました。特に数日間出なかった時は相当に心配であったのだと思います。あんなにふだんから赤ちゃんには浣腸してはいけないといいながらあえてやったのですから―。でも、大事に至らずに済みました。担当者、獣医共々ほっと胸をなでおろしたことでしょう。何といっても日本で初めて。ひとつひとつの歩みが貴重な記録として残ります。
 元来はシロアリを主食としている動物です。この特別食ともいうべき代用食は、夜行性館のところで述べました。もう一度思い起こしてください。離乳は、要はその代用食をいかに食べさせるかです。最初はミルクを混ぜて与え、徐々にミルクの比重を下げてゆけばよいのです。
 順調に離乳は進んだのか、当初の哺乳の頃のような、うんうんと唸った声は聞きませんでした。それを証明するかのように、その可愛ちゃん、親と同じ格好をして、くんくらくんくらよく眠っています。
(松下憲行)

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