でっきぶらし(News Paper)

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63号(1988年05月)12ページ

動物病院だより

 雨が降ったりやんだりの毎日ですが、お変わりありませんか。こちらは洗たくもの(チンパンジー、コモンマーモセット、クロキツネザル、ピグミーマーモセットなど人工哺育で使っているタオル)が乾かないので、動物病院の中や類人猿舎のフロアヒーターの上にのせたり、手すりにかけたり、おしめが乾かないでまいっている母親の心境です。
 さて、この2ヶ月間を振りかえってみますと、5月24日、“グラントシマウマ”のオスが、メスから子を奪ってしまうという事件が発生しました。グラントシマウマは、オスとメスとの相性がなかなかきびしくて、前回のペアでは結局2世誕生は望めず、今のペアは3年前の昭和60年3月13日に来園しました。オスは1才半、メスは4才というペアでした。
 そして待つこと3年、今年3月12日に待望の赤ちゃんが生まれたわけです。(当園では、8年ぶり3回目のおめでたです。)生まれたとたん、お母さんは子にかかりっきり、オスが子に近づいていくと、メスが間に入り、子には絶対近づけません。オスは好奇心旺盛な若いパパ、メスはちっとも相手してくれないし、子に近づきたくても、それもさせてくれないし・・・。
 「えーい、こうなったら子を奪うしかない」と一大決心!一晩あけてみたら、メスのからだはかまれて傷だらけ。子が母親のところに行こうとするとオスがわりこんで行かせない。子はまだまだ乳が欲しい時期です。このまま放っておくわけにはいきません。結局、放飼場の一部を区切り、オスは別居生活を送るはめとあいなりました。さみしそうにポツンとたっているオス、なぐさめてやって下さいナ!
 続いては、5月26日、カリフォルニアアシカの出産がありました。母親はエル。覚えていらっしゃるでしょうか?昨年人工哺育をやった、「リキ」のおかあさんです。昨年同様、隔離室で出産しました。さて、これからが問題。ちゃんと乳を飲ませてくれるだろうか・・・。エルは比較的おちついていましたが、ヘソの緒をきってくれないので、子は胎盤をひっぱって動きまわっていました。そうしているうちに、胎盤が床にくっついてしまい、動けない状態となってしまいました。しかし、エルはかみきろうとしません。そこで一時エルから子をとりあげ、人為的に臍帯を切って再び、親にもどすことにしました。担当の川村飼育課員と中に入り、むりやりとりあげ、胎盤をとることができました。
 翌日、授乳確認の為、観察していたところ、午前10時、子が乳首に吸いつき、授乳が確認できました。今回はエルの元で子の成長がみられるかもしれない、よかった!なにしろ離乳まで331日かかった「リキ」の人工哺育のたいへんさがわかっていますから、助かったという気持ちが本心かもしれません。
 アシカは生まれたすぐから泳げると思われている方もいらっしゃるかと思いますが、だいたい生後7〜10日までは、プールに入りません。その後、徐々に母親がプールに入れ、少し泳ぐと口でくわえ、陸地にあげてやります。それを繰り返して、泳ぎがうまくなってゆきます。はたしてエルがこのようにして子を扱ってくれるだろうか。
 6月2日、8日、アシカ池の清掃を行ないました。夕方までに水がプールに充分たまらない為、安全を期し、エルと子を隔離室に入れ、翌朝プールにもどすことにしました。翌日、なにげなくアシカ池を見ると、子がちょうどプールに入り、ぎごちなく泳いでいました。そこへボスが近づいていくと、さっとエルが行き、子をくわえて陸へあげていました。やった!これでエル、あなたも一人前の母親となったわけです。
 さて母親になった動物でもう1種、6月17日ニホンカモシカが1頭出産しました。この母親は、昭和58年5月に栗代林道で保護された個体です。その時の体重は2.3kg、その為人工哺育で大きくなったのです。父親も、今から10年前に幼獣で保護された個体ですから、いずれもこの動物園育ちです。
 このペアは、昨年6月9日に1頭出産したのですが、この時は残念ながら死産という結果に終わってしまいました。今回は、母親もとても落ち着ついており、ベテランママといったふんいきがあります。
 このように、出産というできごとは、各々の個体の中にいろいろと経験させてくれているようです。当園では、なんとなく、人工哺育する機会が多くなってきていて、本来の動物の親子の姿がだんだん見られなくなっていくようで心配でした。シマウマや、アシカ、カモシカのお母さんの「つめのあか」でもとっておいて、特効薬としてキリンのお母さんなどに飲ませたくなりました。
(八木智子)

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