でっきぶらし(News Paper)

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65号(1988年09月)17ページ

動物病院だより

 今年は季節の区切りがないまま終わってしまいそうな気がしますが、皆さんはどうですか。夏ってあったっけ?秋ってあったっけ?そんなことが影響してか、カゼの流行がはやいようです。
 毎年、年明け頃、類人猿からゴホン、ゴホンやらハクショーンと聞こえてきて、「いよいよ来たナ」と緊張するのですが、今年はなんと九月にローランドゴリラのメスが咳きこみ始め、オスのゴロンにうつったのです。そして十月に入るとチンパンジーのパンジーとディジー、それにオランウータンのジュンもひいてしまいました。 
 寝室内は、あちらこちらで、ハクショーン。ゴホン!!ゴホンの連発。聞いているだけでこちらが苦しくなりそうでした。さて治療はとなりますと、薬を入れたことがわからないようごまかして与えなければなりません。ですから、担当者が毎日与えているミルクやジュースに混ぜて
 「ほら、トト、ミルクだぞ」
 「ゴロン、ジュース持ってきたぞ」
とまあこんなふうに与えるのです。ところが舌は敏感。一口のんでありゃおかしいと出してしまいます。ですから使う薬は、にがくないもの、できれば、味、臭いのないものを選ばなければなりません。また与えるものが一頭だけならいいのですが、今回みたく重なるとたいへん!!
 「えーと、これはトト、こちらはゴロン。」とまちがえないようにしなければなりません。
 そんな中、チンパンジーのパンジーもかぜをひいてしまいました。パンジーはただ今妊娠中ですから薬が与えられません。以前、チンパンジーのディジーが妊娠中、やはりかぜをひいてしまい、その時、ハチミツのカリン漬けを与えたことがあり、その後、類人猿舎には、キンカン、カリンがつけてあります。そこで、パンジーにはこの薬をあたえることにしました。
 類人猿のかぜは二週間ほどで回復してくれましたが、担当者は休み返上。ごくろうさまでした。
 ほっとしたのもつかの間。今度は小さなサル、マーモセットの仲間が、かぜをひいてしまいました。なんせ体重が百〜二百五十gと小さく体力がありません。ミルクを飲ませられるものにはミルクを与え、なんとか体力の維持に努めました。
 さて、動物病院の入院動物に、また新しい動物が加わりました。別にけがをしたり、病気になったわけではなく、ワシントン条約違反ということで、十月三日にカニクイザル一頭、十月二十六日にはキバタン一羽、オオハナインコ五羽、オオハナインコもどき一羽、ヒイコ一羽が保護されたのです。いずれも船員さんが持ちこんだものを清水税関で押収したものです。
 カニクイザルはまだ小さく、船員さんがとってもかわいがって別れるのが悲しくて男泣きしたそうです。
 ワシントン条約がどんなものか知っている船員さんがどのくらいいるのかとふと思ってしまいます。以前こうして保護されたオランウータンやテナガザルは、市場で売られていたと聞くと、保護政策はどうなっているのかと考えてしまいます。自然保護、絶滅に瀕している野生動物を救おう!!その声が、実際に必要としている地域において、理解されない限り、この運動の成果はでません。少なくとも公の場所で大っぴらに売られるなんてことはなくなるはずです。
 さあ今年ももう少しで終わりです。あなたもかぜなどひかぬよう気をつけて下さいネ。
                                           (八木 智子)

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