でっきぶらし(News Paper)

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73号(1990年01月)1ページ

アクシスジカを語る

 一月十五日、月曜日。冬にしては暖かな日和でしたが、天候は少しずつながら崩れる様子を見せていました。
 そんな昼下がり、アクシスジカの放飼場の前がすごい人の山。ざわつく中で、皆ある一点に集中していました。赤ちゃんが、今にも生まれそうだったのです。
 しかしながら、お客様の“いい場面に出会えた”との表情とは裏腹に、係員の表情は冴えません。それもその筈、後ひと息のところで子の後ろ足が引っ掛かり、母親となかなか“分離”しないのです。
 このままでは分れないと判断した獣医と係員は、強引に引っ張り出しましたが、母親は驚いて逃亡。子は置き去りにされ、しかもやむを得ないことといいながらも、強引に引っ張り出された後ろ足は伸びたままでなかなか立ち上がれません。ふつう一時間もすれば立って歩けるようになるのですが…。
 子は死にました。一時は母親が戻って子を舐め、子も弱々しくながら立ちあがり、これはとかすかな希望を抱かせましたが、はかなく消えてゆきました。命を育むことの大変さを思い知らされたひと時でもありました。

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