でっきぶらし(News Paper)

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73号(1990年01月)3ページ

アクシスジカを語る【角に見惚れて】

 いつ何処で生まれて何処からきたのかも分らなくても、年令が容易に想像つくのは、シカの場合は体格だけでなく、角という判断材料がある為です。二才も過ぎて短い角がちょこんとあるだけなんて考えられません。一才から二才の間、と判断してまず間違いないでしょう。
 私は可愛い子鹿より、年々太く大きくたくましくなってゆく角のほうに強い関心を抱きました。枝角が少なく、他のシカに比べると割合にさっぱりしていますが、三日月がそびえ立っているような感じに魅入られました。
 事実、体格の割に角は大きいように思われます。ホンシュウジカと撮り比べたら、ホンシュウジカのみすぼらしかったこと、みすぼらしかったこと。比べられたホンシュウジカにすれば、いい迷惑だったかもしれません。
 アクシスジカは最高時、角一本の重さは二kg近くありました。片や、ホンシュウジカは五百gぐらい。体格にひと回りの違いを感じますが、それにしても角の大きさが違い過ぎます。見惚れた理由、お分かり頂けたでしょうか。
 でも、正直な話、担当を命じられた時は恐怖におののきました。前担当者も、前代番者も“角”のあるオスに平気で近づいていったのですが、とてもとてもそんな勇気はありませんでした。
 飼育課長に開口一番、「あの角は切り取って下さい。とても恐くて入っていけません」と依頼。その理由は、私はかのオスにきついマークを受けていた存在だったからです。
 だいたいまず嫌われるのは獣医。治療の為とはいえ、とっ捕まえるわ、注射を打つわ、と痛い目に合わせるのですから無理からぬところでしょうか。
 で、次に嫌われるのは、面倒も見ないくせに獣舎の周りをしょっちゅううろちよろする奴。すぐに顔を覚えられて嫌われて、かつマークされます。
 カメラを向けてかっこいいポーズなんて思うのは、撮り手の身勝手というもの。撮られるほうからすれば、むやみに周辺をうろつく目障りな奴でしかありません。
 本当にもう、用がなくって通り過ぎようとしただけですら、すごい形相でにらみつけられました。ひどい時は、毛を逆立て力んで体を丸くして目を更に見開いてギョロリ。なんて大きくて恐ろしい目付き。
 これをさんざんやられれば、いかにせよビビリます。とても、角がそのままある状態の中へ入っていけるものではありません。でも、お陰様とでもいうか、角が変化する過程の記録だけはしっかり撮れました。

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