でっきぶらし(News Paper)

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73号(1990年01月)12ページ

飼育係二十一年の思い出 秋元錠一【チンパンジーの馴致調教】

 チンパンジーの馴致調教について書いてみたいと思います。動物をならし、又調教する事は一部には動物虐待として反対の声もあり、なかなか難しいと思います。反面調教は、動物が病気や怪我をした場合、動物を捕まえて治療をする事ができますし、調教して芸を教える事によりお客さんへのサービスと共に動物の心理を知る上にも大切だと思います。
 東山動植物園で教わった調教は、動物の体重などの計測、採血などが容易、病気の早期発見、治療が容易、また万一脱出した場合、人に対する恐怖心がないので捕獲が容易等々あります。私が三頭のチンパンジーを預かり馴致調教する上でいかに大変な事か痛感したしました。
 東山でのゴリラ、チンパンジー、オランウータン等の芸が、いかにおもしろかったか、お客さんの反応もほとんどの方が感激しておりました。ゴリラを担当しておられた浅井氏に、もし日本平動物園において調教するならばこの事を注意した方が良いでしょうと次の事を教えてもらいました。
 まず調教する場合、個体の良し悪しに関係があるから、頭の良い個体を選ぶ事。動物との信頼関係ができれば調教はおのずと上手くいく。自分が動物の立ち場になり世話をしてあげる。上手に出来たら餌を与えほめてやる事。悪い事をしたら間を置かずにすぐにしかる事。
 また動物の基本芸「おすわり」とか握手ができるまで他の芸は教えない、あせらずゆっくり調教していきなさいと言われました。
 個体の選出は、すでにサブ、ター坊、ミッキーが居た為、とりあえずこの三頭のチンパンジーの調教に入りました。サブはすでに人に馴れ、ある程度の芸はマスターしておりましたので、他の二頭もそれを見て案外と早くおすわり、握手、三輪車等を覚えてくれました。ついで、マコという個体も加わり四頭となりました。朝早くから夕方までいつも一緒にすごしました。
 サブはよくいろいろな行事に参加しました。紋付羽織袴で浅間神社に初詣にいったり、四月の浅間神社のお祭りには、ロバの背中に乗って市内を行進したりして人気の的でした。
 子供動物園前にステージをこしらえ、そこで鉄棒だとか、お猿のカゴ屋とか、魚屋さん、三輪車、前転後転等をサブに負けず、劣らずミッキ―やター坊も披露してくれました。失敗もありましたが、かえって失敗した時の方がお客さんには人気があり、拍手も一段と高くなったりしたものです。
 いつもステージまでの行き帰りは三輪車にのせていったのですが、だんだん三頭とも大きくなっていたずらが多くなり始め、危険性が感じられてきた為、残念ながらショーは中止となりました。
 最後に動物の愛護について一言述べてみます。皆さんは日本平動物園にはよく遊びにこられると思います。そこで動物園にこられたら只漠然と見て歩くだけではなく、動物たちの体の違いについて一つの動物と他の動物を比較してみたりしたらおもしろいと思います。例えば頭のちがい、肢のちがい、手のちがいを調べてみる、筆記用具を持参して書いておく事、動物園を訪れるたびに一つでも二つでも調べる、そうすると、又動物園に行って今度はなにを調べようかと、意欲もわいてきて案外おもしろいものです。
 春に訪れた時みた動物が、秋にはどのぐらいに成長したかわかります。動物とお友達になって下さい。そして可愛がって下さい。類人猿は別として、動物は人間の言葉がわかりません。動物に物を投げつけたり、与えたりしないで下さい。狭い檻の中にいる為、逃げる事はできません。私達が、動物の身になって可愛がってやって下さい。動物をいじめて喜んでいる人や平気でおられる人は、弱い人を平気でいじめる人だと思います。
 私も昨年この日本平動物園を退職し、一年間非常勤嘱託として働いてきましたが、今年三月で動物園を去ることになりました。
今後も時々訪れてみたいと思います。

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