でっきぶらし(News Paper)

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76号(1990年07月)4ページ

マレーバクの飼育と誕生

 今では貴重な動物となったマレーバク。バク舎が新築されたのに伴い、担当することになりました。扱いにくい動物と聞いているだけに心配。不安は募るばかりでした。
 出産から成長過程のスライドを見せてもらい、本を借り、それでも安心できずバク舎(旧)に暇を作っては足を運びました。餌の量、扱い方、健康状態の見分け方等、事細かに教わりました。
 五月上旬、まず名古屋の東山動物園と四国のとべ動物園からそれぞれ一頭ずつ来園。続いて休園日に旧バク舎の三頭が移動してきました。いよいよ本格的な飼育の始まりです。
 そして、一番最初に私を悩ませたのは、移動の後遺症です。二頭のオスは思ったよりすんなり移動したのですが、当園生まれのチャーミー?Uは、何もかも初めての経験です。それに移動に使った箱は少し狭過ぎました。
 しばらく興奮気味で、またすり傷を背中のあちこちに作ってしまいました。気を沈めてやるのと、背中の傷の治療が、私の最初の仕事となりました。
 一週間もすぎてやっと落ち着きを取り戻したので、放飼場に出しました。その時、チャーミー?Uの乳首の張り方がどうも気になりました。妊娠しているとは聞いていなかっただけに、何とも理解に苦しんだのです。
 獣医よりは、とにかくよく観察するようにとのアドバイスを受け、注意深く見守りました。これ以上何かあれば、そう思うとなおさらでした。
 それから数日経った六月二日、休みで家でくつろいでいると、マレーバクが生まれたとの電話です。まさかより、やはりと思い、急いで動物園へ向かいました。
 うり模様の赤ん坊が、あどけない姿で親の回りをうろうろしていました。うれしいより、今後のことを考えると不安のほうが先立ちました。何もかも、初めての経験なのですから…。
 初めては、私だけではありません。チャーミー?Uにしてもそうです。どうも神経が高ぶっているようで、子を唐ンつけそうになったり、かみつくような動作を見せることもありました。
 いつものように掃除を始めても、親子のことが心配で気はそちらばかり向いていました。哺乳量も少ないようで、数日間は代番の方の協力を仰いで介添哺育もやったぐらいです。
 そんな私の不安や心配をよそに子はすくすく、気がつけば予想以上に強くたくましく育っていました、となれば命名です。
 六月二日に生まれたのだから、ムーニ。あまりパッとしませんが、誕生日が分かり易くていいでしょう。
 久しぶりの出産だっただけに、報道陣もけっこう押しかけてきて、何日か忙しい日々が続きました。パチパチ写真を撮られて、記者の方は何とも思われなかったのでしょうか。私には親と子が全く色が違うなんて、未だに不思議です。
 思った程の心配事や不安がなかっただけに、二週間もすぎた頃便がやわらかくなったのには、少々慌てました。でも、これも獣医の適切な指示を受けて、すんなり治癒。
 今では、餌をバリバリ食べ、体重もしっかり増えています。放飼場での親子の遊びも元気はつらつとしています。
                                            (堀田 隆)

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