でっきぶらし(News Paper)

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111号(1996年05月)12ページ

動物病院だより◎頑張れ、お父さん

 先日、お尻を怪我して動物病院に入院していたブチクスクスのお父さんが退院して行きました。なぜお尻を怪我していたかというと、人間でもたまに聞く話ですが、夫婦喧嘩がその原因です。
 このブチクスクスのペアは1994年の秋に日本平動物園に来園しましたが、当時からメスが気が強く、オスの方はどちらかというとおっとりしているというか、おとなしい個体で、何度か噛まれたり引っ掻かれたりというような怪我をしていました。どのような状況でそのような怪我をするかというと、ブチクスクスの獣舎には木の枝が張りめぐらされていますが、その止まり木の上ではち合わせした時などにメスがオスに「あんた、じゃまよ、どきなさいよ!」というような風に噛まれたりすることが多かったようです。そこで担当者も考えて、もっと逃げ道を作ったらどうだろうかと、止まり木を増やし、はち合わせしても別の枝に移れるようにしました。その後は多少の喧嘩傷はできるものの、大きな、つまり縫ったりしなければならないような怪我はしなくなっていました。
 そして去年の夏、繁殖に成功し赤ん坊がお腹の袋から顔を出したのです。メスにやられるばかりではなくお父さんは頑張ったのです。(この子は順調に育って熊本の到津遊園に移動しました。)そして、その子供が産まれてから2頭の関係に変化が起こりました。今度は逆にオスの方が強くなったというのです。止まり木の上ではち合わせしてもオスは逃げずに、メスの方が逃げているというのです。お父さんがやっと自信を持ったのかと思われました。しかし、お父さんの天下は長くは続きませんでした。やがてまたメスが威張りはじめ、オスに小さな喧嘩傷が見られるようになりました。そして今年の3月の終りに、お尻のところの皮膚が大きくはがされ、入院となったわけです。個室の中で、ゆっくりのんびり過ごすことができたので傷口は順調に治り、かさぶたがちょっと残る程度になったので退院することになりました。けれども、よほど病院の居心地が良かったのか、獣舎に戻すときになかなか中に入ってくれず、扉を閉めさせてくれませんでした。しかし中に入ってしまうと病院に居た時と同じようにのんびり過ごすようになりました。
 夫婦喧嘩は犬も食わないといいますが、せいぜい怪我のない程度にして欲しいものです。そのお父さんのボーっと遠くを眺めているのを見ながら、また今年もここ一番は頑張って赤ん坊を見せて欲しいと思っています。
(金澤裕司)

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