でっきぶらし(News Paper)

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103号(1995年01月)14ページ

アラカルト 「キリン・イクの怪我」

 神戸の王子動物園で生まれたキリンのイクが、阪神大震災のあった1月17日の朝、左後肢をかばって歩いていました。夜間に何が起こったかは不明です。
 部屋の中では足を傷める場所などない筈ですが、確かに左後肢はついていません。推測するに、地震の揺れを感じて急いで起立したその時に傷めたのでは、と思われます。それでも、当初は痛みはさほどでもないのか、採食は割合に良好な状態でした。
 しかしながら、蹄の部分の腫れは徐々に進行。こうなると脚の長い動物は座ることができるかどうかが問題です。キリンの場合、正常時でも一分くらいかかるので心配でした。 
 夜間はビデオを回して見ると、悪い方を反対にしてどうにか座っていました。が、日に日に疲れはたまるようで、部屋の隅の水飲み場の所を利用してお尻を壁につけて体を支えるようになったのも確認されました。 
 蹄は上のほうまで腫れてきて、ふだん閉じている爪がカニのハサミが開いているようになってしまいました。皮膚はパンパン、我慢しきれなかったかのように、二ヶ所ほど穴があいて、そこから膿が出るようになりました。
 そこで、投薬・治療ですが、キリンのような反芻動物に抗生物質を飲ませると、傷の腫れは引いても第一胃内のフローラ(消化を助ける微生物)が壊されて下痢を招いてしまいます。
 それに気を配りながら、朝に夕に薬を餌に混ぜ、錠剤はリンゴの中に入れ、消炎剤も害が少ない最小限度のもので治療しました。しかし一時腫れは引いたものの、今度は今までより上部のほうがパンパンになってきました。
 これ以上悪化するとキリンの生命が危うくなると獣医が判断。抗生物質とフローラを増殖させる薬を同時に与えましたが、匂いがきついのか採食量は落ち、二日目には全く食べなくなってしまいました。
 これに加えて下痢です。体力は落ちる一方なのに、餌はいろいろ試しても一向に食べてくれません。木の葉は少し食べましたが、このまま体力が落ちれば死ぬのでは、と思える状態にまでなってきていました。
 首を下げ元気をなくしているなと思ったら、それから半日も経たずに死んでしまったキリンのことが頭をよぎり心配しました。
 そんな中、注射による治療が始められました。部屋の中で抗生物質の入った注射器を吹き矢でもって打ち込むのです。注射器にはひもがついていて回収しやすいようになっていました。
 毎朝行なうこの治療も三週間となり、最近では膿の出る量も少なくなりました。左後肢にもわずかながら力をかけるようになって、快方に向かっている様子です。しかし、まだ足は引いて歩いており、本当に喜べるまでにはもう少し時間がかかりそうです。
(佐野一成)

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