でっきぶらし(News Paper)

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172号(2006年10月)9ページ

【動物園実習だより】 獣医実習を終えて

日本大学生物資源科学部獣医学科5年
夏目 沙織

8月中旬に1週間、幼い頃よく訪れた日本平動物園で獣医実習をさせて頂きました。
まずは動物園内にある動物病院の入院動物の世話を教えて頂きました。入院動物といっても、病気や怪我をした園内の飼育動物よりも、保護した野生傷病鳥獣の数の方が多いことに驚きました。
年間平均収容数は619件にもなります。

動物園が野生動物保護という社会的役割を担っていることは知っていましたが、希少価値のある動物に限ってのことだと思っていました。指定の地域で保護された動物全てということであれば、静岡県で専用の保護施設を設けるべきであると思います。野生動物の持っている疾病が飼育動物に感染する危険性は免れませんから。

次に驚いたことは、餌です。本当に新鮮で手の込んだいいものを食べているのです。例えばリスザルの餌は、リンゴ、煮ニンジン、煮イモ、オレンジ、トマト、バナナ、ブドウ、ふやかしたドックフード、煮ダイズ、ヒマワリ、煮干し、タマゴ、サル用ペレット、キャベツ、青菜、ミルワーム、パンかゆです。

園内の動物の餌は全て、成分計算・カロリー計算を基に考えられています。コザクラインコの餌は、青菜、りんご、オレンジ、トマト、バナナ、ひまわりの種、パン、インコペレットです。それに対してオカメインコは小鳥配合だけです。

同じインコでも、生息地によって果実類を食べている鳥には与えています。餌は健康管理のみでなくストレス軽減の目的もあります。狭いケージの中で飼われている動物は食べることしか楽しみがないから、食べなくても果汁を吸うだけで満足したりするから与えるのだと聞き、獣医さん・飼育員さんの動物への愛情を感じました。日本平動物園の動物たちはこの餌のおかげか長寿だと聞き、非常に嬉しくなりました。

動物園獣医師の仕事は、1.園内の飼育動物の飼養管理・治療 2. 野生傷病鳥獣の収容・治療3.密輸入・違法飼育動物の収容 4.種の保存事業 5.野生動物保護(=動物愛護=環境保護)の啓蒙普及事業 6.野生動物の生息調査と保全 7.様々な委託事業 8.海外や他の動物園との間で動物の調整 9.死亡動物の死因究明;解剖 10.感染予防対策事業と本当にたくさんあります。

中でも一番大変だと思ったのが、園内の飼育動物の飼養管理・治療において、各動物種の生息環境や食性、繁殖生理まで全てを把握していなければならないことです。小動物の獣医師ならば、最低限犬・猫を知っていれば対応できますが、動物園では飼育動物に加え、どんな保護動物が舞い込んでくるか分かりません。

これは小動物の獣医師にも産業動物の獣医師にも共通することですが、獣医師に一番必要なのはコミュニケーション能力だと感じました。飼育員さんとの毎日の何気ない会話から、獣医師の目の届かないところの動物の変化に気付き伝えてもらう工夫や、動物の飼育環境や給餌方法等の改善点を話し合うために、普段から信頼関係を築いておくことが重要です。

1週間という短い期間でしたが、本当に多くのことを学ぶことが出来ました。ありがとうございました。

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