176号(2007年06月)5ページ
ハッピータイムの始まり 〜羊のクック&プリン〜
みどりの若葉が息吹き、清々しい風と共に葉と葉の隙間から眩しい光が差し込んでくる5月の初旬、ここ日本平動物園も春の動物園まつりが盛大に開催されました。
各獣舎(展示)ブースでは、ご来園のお客さまに喜んでもらおうと、動物たちと一緒に飼育員が溶け込んでいました。ちょいと入場ゲートをくぐってからフラミンゴ池前を右手の奥へ、緩やかな坂道に沿って上っていくと、子供たちの弾んだ声が響くすばらしい場所があります。
動物たちと身近にふれあえる、ここ子ども動物園に他なりません。
ゴールデンウィークともなれば、大勢のお客さんたちが立ち寄り大賑わいであります。
ニコニコ広場では、生まれたばかりのヒヨコに夢中で触れ合う子どもたち、シフォンケーキみたいにふっくらとして肌触りのよいウサギと、愛らしいモルモットのモルちゃんとを往来しながら感触を楽しんでいる子どもたち、家族の前では怖がりながらもアオダイショウ、ボールニシキヘビなどにクールに触る優しいお父さん・・・。小さな子どもから大人の方まで癒される空間として大変人気があります。
この広場では、毎年限定2日のささやかなイベントがあるのです。何だと思われますか?それは、「ヒツジの毛刈り体験」です。この時期となりますと、暑い夏に備えていっせいにどこの園でも毛を刈ることでしょう。
ヒツジといいますと今から昔へさかのぼることおよそ1万年前、元は西アジアや中央アジア地方に生息していたものを家畜として飼い馴らしたのが始まりと言われており、人間の食糧や毛を採るものとして扱われてきました。今では品種改良によりその数100種類以上にのぼります。
子ども動物園で飼育しているヒツジは毛肉兼用種のサフォーク種でメスの2頭です。両方とも年齢は10歳齢で人間の年で数えますとおよそ30歳をすこし越えたあたりではないでしょうか。人間に対しては比較的おとなしく、近くに寄れば「ブェー・・・」とヤギさんよりも比較的太い声で発しあいさつしてくれます。餌の匂いでもするのでしょうか・・・?
うす黒フェイスな彼女たちの表情は、穏やかで目と鼻の間が長く、すこし盛上っています。耳といえば正面から見て、ちょうど目の高さぐらいの位置にあります。左右に長い筒状の小さなラッパが飾ってあるかのようで愛らしく、時折「プル・・プル・・」と小刻みに揺らしユニークであります。
採食の時以外は、いつも放飼場のわりと隅の木陰を見つけて涼しげに生活している彼女たちですが、素敵なお名前(愛称)がありますのでご紹介します。「クック」と「プリン」です。この愛称を耳にいたしますと、お恥ずかしながらどうしても美味しいお菓子などを想像してしまいますが、そのお話は袖にしまっておきましょう。
今年も5月3日に「クック」そして、4日に「プリン」の毛刈りをしました。両日とも晴天に恵まれ、子ども動物園の中央に位置し夏は水遊び場として親しまれるプール広場でお客様の見守るなか開催しました。
毛刈り体験の準備のため、さっそくクックを放飼場から連れ出したのですが、これがまたスムーズにいきません。いつもなら美味しいご馳走(餌)が入っているバケツを片手に持って「よし、よし、餌をあげるからな・・」と語りかけ歩み寄るのですが、この日は捕まえるロープを片手に持っていたので、ヒツジの気持ちになれば、美味しいものではないですよね。
空気が解かるらしく「ブェーやだよー」と鳴き近づいてくれません。一人では無理なので同じ職員の協力を得てようやくお客さまの輪の中に入場しました。
普段なら、格子の中で展示している動物が何も境の無い皆さんの横を通り、そして、目の前に登場したのですから、さあ大変です。大きな目、大きな顔、大きな体、改めて眺めますと意外にも大きいらしく、お客さまの目も大きく見開いたままのようでした。
職員一同でヒツジさんの足をすくい軽く横に寝かした時は、「オォー・・・」と歓声が周りからあがりました。
バリカンのスイッチを入れ、高速な機械音が鳴り響きいよいよ刈る時がきました。慎重に手を動かすのですが、思い通りになりません。緊張するものです。皮膚を傷つけまいと浅く刈るせいでむらが出来てうまく刈れません。
お世辞にも綺麗とはいきませんでしたが、それでも何とか体の半分は刈ることができましたが、おとなしく横になっているクックはとてもいい子です。
いよいよ残り半分をお客さまに、毛刈り体験して頂こうと呼びかけますと、予想以上に大勢の方々が子どもたちと一緒に参加していただき、会場がさらに明るいムードに包まれました。「こんにちは、一緒に刈ろうね・・・」職員が子どもの手をとり優しくなぞるように刈りますと、子どもたちの顔も楽しそうな表情で答えていました。「はい、上手だったね」
毛刈りを通して、ヒツジさんと仲良く出来た子どもたちに、そのとき刈った毛を気持ちですが、プレゼントいたしますと「ありがとう・・」とニッコリ答えてくれます。お家に帰ってから食卓に並ぶことはありませんが、あのフワフワで温かい毛の感触と楽しかった体験はきっと温かいおかずになったことでしょう。
そして、最後までおとなしく毛を刈らせてくれたクック、2日目に活躍したプリンも偉かったですね。彼女たちのフワフワな毛は温かいだけでなく、感動と幸せも運んでくれる特別な毛のようです。クックちゃん、そしてプリンちゃん、来年もまた、ご来園の多くのお客さんに一緒に幸せをプレゼントしようね・・・「ブェー喜んで!」
(青木 光生)