でっきぶらし(News Paper)

一覧へ戻る

« 191号の3ページへ191号の5ページへ »

191号(2009年12月)4ページ

ムキムキムー君

6月11日生まれ、6(ム)1(ト)1(イ)君。大所帯の小型サル舎では、1頭ずつの特徴や日々の様子などを的確に把握するためもあって、担当飼育員は生まれた子供には日付にちなんだ呼び名をつけています。先日、お客さん達の応募で決定したエリマキキツネザルの双子もオスのエリックとメスのナーム(7月6日生まれ)でした。

ムトイ君は、昨年生まれの双子のコモンマーモセットです。小型サル舎で親子4頭で暮らしていましたが、半年後に母親が衰弱で入院。2頭の子供を育て体が弱りきっており入院後数日して死亡してしまいました。

お母さんがいなくなってしまったムトイ兄弟。既に親の餌にも手をつけ離乳が進んでいたので、お父さんに頑張ってお世話をしてもらおうと様子を見ていました。マーモセットの仲間の多くは家族全員参加の子育てをします。その点ではこのお父さんにも心配はなかったのですが・・やはりムトイ兄弟にも日に日に衰弱の様子が見えます。「このままでは危ない。」数日後、ムトイ兄弟も動物病院に入院しました。  

入院させ、体重を計ってびっくり。生後半年の体重とは思えない少なさ。ミルクを飲ませ、離乳食を食べさせ、赤ちゃんに逆戻りくらいのお世話と栄養剤の注射による治療が始まりました。3日後残念ながらムトイの兄弟は死亡。「ムトイだけは死なせたくない、頑張ろう!」と病院飼育員と決意を固め、より注意深く丁寧なお世話が続きました。

2月に入り、少しずつ動きが活発になりだし、3月初めには毎日続けていた治療を終了し、栄養剤は餌に混ぜるのみになりました。3月終わりには体重がグンと増え、保育室を出て入院室へ移動。広いケージの中を元気にジャンプする様子も見られ、私達も少しホッとしました。  

その後少しずつ体重も増え、まだまだ小さく体重の増減がありながらも少しずつ成長していた7月。
ケージの網につかまったり木に登ったりの行動が見られない。後ろ足の力が弱くなってしまったのか、歩けない様子です。入院生活も長いため、定期的に日光浴もさせ、骨の成長にも気を配ってはいましたが・・この頃一日の中でも体重の増減が激しくなりました。また、治療とミルクの生活に逆戻りです。

ミルクには体を作るためにもプロテインや黄な粉、卵黄などを混ぜています。ムトイの体を考えて先輩獣医が探したプロテインは人間の部活を頑張る中学生用。「ムー君、頑張って中学生男子になろうね!」と言って、ムトイの体力筋力強化作戦が始まりました。

が、やはりおかしい。足を触ってみると妙なところに「関節?違うよな・・」、伸ばそうとすると「伸びない・・」レントゲンを撮ってみると、「えぇっ、こんなに・・」なんと、両足の太ももの骨、ひざの骨、しっぽの骨まであちこち折れています。しかも、しばらく時間が経って折れた骨がくっつき始めているところ。妙なところにあった関節は、折れた骨が直角にくっついている所でした。

木登りしていて落ちたのか?レントゲンには細くもろそうな骨が写っています。何かの拍子にどこかを骨折したにしろ、うまく動きがとれない間にあちこちの骨が負けてしまったのだと思います。

暖かい季節になって良い成長が見られてきていたのに、毎日気にしていただけにこの状態は悔しい。と、同時に小型サル類の人工保育で気をつけねばならない骨の健康管理の難しさが身にしみました。

本来の成長期に栄養や日光不足があると、ムトイのように一生に響いてしまうのです。

ムトイの骨折は、どこも既に治療するには時間が経過し、幸いというのか不格好ながらも骨はつながっています。逆に折れたまま治療が必要な状態だった場合の方が、この小さな体にどんな治療をしてよいか悩むところです。

残念ですが、まっすぐな健康な骨はあきらめなければなりません。この状態でも、筋力をつけ、栄養状態を良くして骨を支えることに専念していく方針になりました。病院飼育員が、自力で餌を食べる量を確認しながら不足分を食べさせ、特製ミルクやジュースも飲ませ続けること数週間。使えない後ろ足の代わりに前足がしっかりしてきた様子です。ケージの中のブランコのロープをつかんだり、巣箱へ出入りし移動している様子が見えるようになってきました。

体重の増減が相変わらずのため、毎朝捕まえて体重測定をしていますが、「抵抗する力が少しずつ強くなってきている!」嬉しそうに毎日の変化を飼育員が報告してくれるようになってきました。
「動けるのなら!」と餌の面だけからではなく、飼育員はケージ内にも工夫をしてくれます。

まずは、ケージ内に段差を設け、登りやすくするため百円ショップで買ってきた小さな網焼き用網を斜めにかけてくれました。「良い調子!」と動きを観察しながらケージの空間内をあちこちに移動できるように、園内で集めてきた細い枝やつるをはりめぐらせ、一番高い所にクリスマスリースのような輪っかの休憩所も作ってくれました。

ムトイの体力筋力運動能力強化作戦、現在のところ順調です!逆さまになって枝を登り降りしたり、リースの輪っかの中にいたり、動きも速く力も強くなりました。使えなかった後ろ足でもしっかりにぎることができています。

体重も一番少ない時から倍以上に増え、腕なんかムキムキしています。餌を入れたお皿が空っぽの日だってよくあります。骨折した場所の経過を見るためにレントゲンを撮ったところ、骨はぐねりと曲がってしまってはいますが、以前よりしっかりしている。

そして、腕にも足にも筋肉がしっかりついているたくましい体になっていることがわかりました。

「やった!ムー君よく頑張ったね。」「立派な中学生男子になってきた!」飼育員は毎日の体重の記録をグラフにしていました。そして、体重の増減とこれまでの経過を見比べ、増えた理由、減った理由が経過と重なり、それでも着実に成長していることを確認してくれました。

ムトイの入院してからの一年間には良いこと悪いこといろいろありました。けれど、あきらめずあらゆる面から細やかに飼育員達がお世話を続けてきてくれたおかげで、「ムー君今日も元気だね!」の声がかけられます。ムトイは園内でみなさんにお会いすることはできませんが、動物病院で今日も体力筋力運動能力の向上に私達と励んでいます。これからのムトイのこと、どうぞ応援して下さい。

そういえばブランコですが、以前186号の「入院室での格闘」で紹介した、リスザル用ブランコの夢破れた前担当が試し続けた小型サル用ブランコです。ブランコの4本ロープの一本をにぎり、ちょこんと腰かけたムトイ!「あぁ、この姿を彼女に見せてあげたい!」興奮して見入った私の姿に、ムトイはひょいとブランコから降り、手前の網にしがみついて私をのぞきこみました。
(長倉 綾子)

« 191号の3ページへ191号の5ページへ »

一覧へ戻る

ページの先頭へ