でっきぶらし(News Paper)

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201号(2011年08月)3ページ

サイの泥パック

 日本平動物園では、二頭のシロサイを飼育しています。オスのタロウは、今年二十九歳、普段は穏やかですが、些細な音などに反応することもある人懐っこい性格です。メスのサイコは、三十歳で食べる事が何よりも大好きみたいです。少々、タロウに対して威張るところもあり、オスのエサ場所を鼻息で軽く威嚇して、ご馳走を横取りする事も、たまに見られます。まぁ、サイコに悪気は無いのですが、餌に夢中なのでしょう。
 放飼場の土の状態は、あの巨体ですから、毎日歩行すれば、コンクリートのように踏み固められてしまいます。定期的に土を補充するのですが、頑丈に固まった土の上に、柔らかい土を新しく入れても、雨が降りますと、いとも簡単に洗い流されてしまい、大きく荒い石がゴロゴロと姿を現すのです。このままでは、サイ達の足に負担が掛り、思わぬ怪我をまねいてしまう不安が消えません。
 そんな悩みの中、管理担当の望月さんが重機を使って辺り一面の土を、掘り返す事を快く引き受けてくれました。作業は広い放飼場なので、昼間一日掛りましたが、おかげさまで土の状態はフカフカと柔らかく盛り上がったものに改善されました。「やった!良かった!サイ達もビックリして喜ぶ!」とその時の気持ちは、彼らに代わって感謝でいっぱいでした。望月さん、ありがとう!
 翌日の朝に外扉を開放して、二頭を放飼場に出すのですが、いつもと違う雰囲気をサイ達も感じたのでしょう、慎重に足を前へ運ぶのです。「大丈夫だよ!心配ないよ!」と声を掛けました。タロウはこちらを一瞬見ましたが、目の前に広がる柔らかくなった土を、踏み確かめるように一歩一歩前へ進んで行きました。サイコも後をついて進み、時々、土の匂いを確かめるのでしょう、鼻で土を左右に擦りつけクンクン嗅ぐ仕草をします。匂いが消えちゃったのでしょうかね。(笑)
 次の日は、恵みの雨でした。私は、雨の予報の時点から、この日を楽しみにしていました。みなさんも、ご想像はつきますよね!雨の中、早朝、足早にサイ舎へ向かい雨に濡れた土の様子を見ますと、赤茶けた柔らかそうな土の上に、雨水が溜まって準備万端な状態でした。サイ達の喜ぶ顔が浮かんだのは言うまでもありませんね。
 さあ!扉を開けタロウとサイコを開放しました。ちょっぴり、雨に濡れるのが嫌なのでしょうか、それとも慣れない土を踏みたくないのでしょうか、ゆっくりと、前へ前へと二頭とも進みます。今日の朝食は、大好物のヘイキューブも混ぜてありましたので、こちらへ戻るわけがないと確信していました。土は、とっても柔らかいのでしょう。タロウがぬかるみに足を取られ目を丸くして「はっ!」と焦るところも確認できました。良い刺激かな。餌を食べ終わるまでは、特に目立つ行動はなかったのですが、しばらくしますと、サイコがお尻の方からしゃがみ、そして、横になり、泥水を体に塗りつけ始めました。続いて、タロウもその横で背中にも泥を塗りつけ始めました。さて!仲良し子よし泥パックの共演です!顔の頬そして、顎には、たっぷり泥がついた前足を枕代わりにしてゴシゴシと塗りつけていきます。仕上げは、イヌのように一回転でんぐり返りです。気持ち良さがこちらまで伝わってきます。思わず涙。全身ずぶ濡れ、泥に覆われた状態から今度は、放飼場の中で硬い所を探し、角をガリガリと研ぐ行為が始まりました。
 雨模様静かな動物園、聞こえるのは、シトシトと降る雨音と、時々「バフン!」と勢い良く鼻を鳴らし、角を研ぐサイ達。彼らに勇ましさと野生感を感じずには、いられませんでした。「これだ!これを見せなければね!」
 頑張るぞ!飼育員!伝えよう!飼育員!

飼育担当 青木 光生

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