でっきぶらし(News Paper)

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204号(2012年02月)2ページ

≪あらかると≫タロウへの手紙

 昨年12月某日、園内にある動物病院のもとに一通の封筒が届きました。
 それは、昨年の晩夏に亡くなったニホンザルのタロウの死因を解明すべく、外部の検査所に送った検体の病理検査の結果でした。さっそく診断の内容を読み進めると「心臓、肺、肝臓、腎臓、副腎、その他の腫瘤:悪性上皮系腫瘍(癌)」、「副腎:副腎腫瘍」、「腎癌」。獣医師と私(中型サル新任)は、あまりにもつらつらと書き綴られる診断結果に驚きました。どうやら、33才だったタロウの老体は、ありとあらゆる臓器が癌におかされていたようでした。
 ニホンザルの平均寿命は飼育下では20代半ばであり、33才など全国的にも世界的にみても超高齢です。立派に大往生を遂げたことは間違いないでしょう。とはいうものの、タロウじいさんを看取った者としては、改めて思い返すと相当に苦しい最期だったのだろうと思い、いたたまれない気持ちにもなりました。それと同時に、33年という長い月日を日本平動物園の歴史とともに生き抜き、引退後はお客さんの目に付くことのないバックヤード棟でひっそりと亡くなっていったタロウじいさんの功労を称えたいと思い、今回この「でっきぶらし」の紙面をお借りしてタロウじいさんに感謝の手紙を送りたいと思います。

 〜 タロウへ 〜

 あなたはこの33年間で、いったい何人の来園者に出会ってきたのでしょうか。きっと「お顔もお尻も真っ赤っかだね!」と昔喜んだあの子も、今では大人になり、結婚をして、今度は自分のこどもを連れて来ているのかもしれません。それだけ長い年月をあなたは立派に生きて動物園で活躍していたのですね。
 あなたはこれまでいったい、何人の飼育員と彼らの思いと関わり合ってきたのでしょうか。いつの時代の担当者が一番好きでしたか?あなたの亡くなる直前に、歴代の担当者たちが挨拶しに来てくれたこと、胸にグッとくるものがありましたね。
 それにしても人生最後の年を、新任しかも自分よりも年下の人間に世話されるとは、あなたも貧乏クジをひいてしまったなと思っていたかもしれません。がっかりしましたか?でも私からすると、このタイミングであなたを担当できたことは、幸運だったと感じています。
 あなたは私に世話されているようで、実のところは私の指導者となり飼育員の仕事を教えてくれていました。細かくあげたらきりがないけれど、特に印象深いものでは最期の1週間でしょう。体の不調は見せたくないこと、最後の日まで意地でも食べようとすること、体が動けなくなっても絶対にひとに触れられたくないこと。その貫禄から、野生動物のプライドや浪漫すら感じました。
 食欲がなくなってきた頃に迎えた33才の誕生日、こしらえた煮イモのバースデーケーキ(煮ニンジンのろうそく付)と歌でお祝いしましたね。この時、やれることはやってみようという気持ち、たまに応えてくれたときのこの上ない歓びを教えてくれました。亡くなった後には、すぐ死因を究明するための解剖作業に立ち会うこと。これにはちょっと気持ちの切り替えが必要でした。作業の最中にも「飼育員としてやれることは何か」あなたは私を考えさせ、最期の最後まで、導いてくれる先生でした。本当に、ありがたい存在です。あなたというニホンザルの先生がいたことを忘れず、これからも思い出しますので、その時にはまたご指導よろしくお願いします。 

 飼育担当 林 さとみ より 

〜タロウじいさんの経過〜
・2010.6(当時31才)・・・お腹にデキモノが見つかる。グジュグジュと自壊を繰り返す。
・約半年後・・・臀部にぷっくりとした腫れものができる。どんどん大きくなる。
・2011.4・・・タロウの一昨年の夏の様子を見てきた前担当者から、次の夏は乗り切れられないかもしれないとの助言。
・2011.7・・・猛暑が続き、フラフラする。涼しいバックヤードに移す。実質上の「引退」
・2011.8.6・・・33才の誕生日。慎ましやかに二人だけで誕生日会を開く。腹や臀部以外にも胸にもデキモノが増える。
・2011.9.15・・・死亡

飼育担当 林 さとみ

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